ねずみチュウ鉄

仕事で関わりがあるからだと思うが、世の中に存在する様々な「材料」に興味がある。
材料と一口に言っても金属、非金属、非鉄金属と色々あり、その中で更に細かく言っていくとプラスチック、セラミックス、カーボン、磁性材、複合材と種類は様々。
こうした細かい話をしてもポカーンとされてしまうだろうが、この世の中には我々と直接的な関わりが無いためにほとんど知られずにいる色んな材料が存在している。

例えばプラスチックと言ってもその種類は膨大で、外観、機能、用途、作り方にいたるまで様々。
我々になじみがあるのは「テフロン」の名前で知られるいわゆるフッ素樹脂、名前だけは聞くであろうアクリルや、名前に馴染みは無いが実は至るところにつかわれているポリカーボネート。CDの材料だ。
どれも同じ「プラスチック」として認識している人は多いしそれでOKである。
恐らく我々が普段生活している中で触れる事になるプラスチックの種類はせいぜい10種類ぐらいではないかと思う。

もっと専門的で特殊な環境、例えば病院や駅舎、工場や発電所などに行くとさらに様相は変わり、
徐々に物騒な名前を持つプラスチックが激増してくる。幾つかピックアップしてみよう。

PAI=ポリアミドイミド
PES=ポリエーテルサイホン
PEEK=ポリエーテルエーテルケトン

≪もうやめて・・・!≫

ここまで覚えにくく、しかも全く愛着の沸きようの無いネーミングは動植物の学名ぐらいではなかろうか。
実は先の「テフロン」だって、本当の名前はポリテトラフルオロエチレンという凄まじい名前だし、よくよく聞いてみるとなんだかわけのわからない物質で埋め尽くされた気色悪さがある。

このように、プラスチック一つとっても材料の世界は何かと難解で、とっつきにくい側面があるのが実際のところ。

そんな中で今回紹介したいのは、俺が勝手に「金属界のマスコット」と思っている材料。その名も「ねずみ鋳鉄(ちゅうてつ)」である。

鋳鉄とは、材料上の定義としてはある程度の炭素量を含んだ鉄系材料、一般的にはドロドロに溶かして型に入れて成型出来る鉄系材料を指している。
そんな中、ねずみ鋳鉄は「灰色だから」という安易な理由で「ねずみ」の与えられたのだそうだ。ひよこ豆の様な可愛らしさがないだろうか。

鋳鉄においても先ほどのプラスチック同様、やはり難解なネーミングは存在する。

FCD=ダクタイル鋳鉄
FCMP=パーライト可鍛鋳鉄
FCMB=黒心可鍛鋳鉄

もはやモンスターハンターの鉱物の世界であるが、こういうのを見て行った時に改めて見る「ねずみ鋳鉄」のネーミングはどうでしょうか。
「ねずみ」+「チュウ」という、親切にも鳴き声もカバーしてくれる愛嬌タップリのネーミングは、ガッチガチで難解な漢字、アルファベットが並ぶ乾ききった材料の世界におけるひと時のオアシス。
ねずみチュウ鉄。もはやいぬワン鉄も許して欲しいハートフルな気持ちになる。

声に出してみたい日本語、ねずみ鋳鉄。使ってみたい鋳鉄No.1を目指して、ねずみ鋳鉄!
しかし残念ながらこのねずみ鋳鉄もただ単に「鋳鉄」で済まされる事が多く、わざわざ「ねずみ鋳鉄」という人がいないのが残念なところ。
したがって仕事上、まだ一度もねずみ鋳鉄が登場したことはないが、いつか会社のオフィスで高らかに発音してみたい、

「ねずみチュウ鉄!」

すでにこの世界に関係のある人、もしくはこれから入ろうかという学生さん、ぜひ材料のご指定は「ねずみ鋳鉄」でお願いします。