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俺たちの性別集会

中学の頃「性別集会」というのが半年に一度くらいの頻度で開かれていた。

性別集会とはその名のごとく、各学年単位で男子生徒、女子生徒がそれぞれ別の場所に集り、それぞれ男子教師陣、女教師陣によって「性」についての説法を受けるという集会。その名前こそ様々だろうが、恐らく皆さんも似たような集会を経験したことがあるのではないだろうか。

初めての性別集会が忘れられない。それは中学2年の頃だったと思う。

「男は渡り廊下に集れ。」という僅かな情報だけで恐る恐る集って来た各クラスの男子生徒を待っていたのは、腕を組み鋭い眼光で生徒の前に立っている男性教師の一群であった。

生徒が男子生徒だけならば教師も男性教師のみ。だけども「男祭ジャイ!」というような血気盛んな感じでもなく、妙に厳粛な、どんよりとした雰囲気。何が起きるのかとザワつく渡り生徒たち。そこには女が誰一人居ないという違和感がただただ新鮮だったのを鮮明におぼえている。

これから一体俺たちは何を聞かされるのかと身構えていたところ、そこに現れたのは青木という体育教師。ハーフなのではないかと噂が流れるほど目鼻立ちがはっきりしていてしかも長身、田舎には珍しく男前の教師だった。

その青木がいつになくブチ切れた顔をし、ザワつく男子生徒達の前に登場するや前触れも無く「やかましい!!!」と怒鳴った。それに呼応するように、腕を組んで渡り廊下のサイドに立っていた他の男性教師の一人も「しずかにしないか!」と続く。何なんだこれは。男だけの渡り廊下、理由も言わずにブチ切れる男性教師。訳は分からず、だけどとにかく様子が変だった。


静かになった男子生徒を前にして、尚も硬い表情をキープしていた青木が静かに口を開いた。

鋭い眼光で全体を見渡し、高圧的な立ち方で我々の前に君臨する姿はいつもの彼のやり方であったが、その日放った一言はあまりに唐突、あまりに衝撃的だった。

「で、お前ら、もうせんずりはしているんだろう?」

 

≪!!!!!!!!!!≫

その言葉によって、そこにいた男子生徒達はすぐにこの「性別集会」の狙いを悟った。


いきなり現れて「しているんだろう?」という決め付けはどうだ。その豪快な質問自体も凄いが「やかましい!!!」の後の「で、」という無邪気な流れも見逃せない。

腐っても教育現場なのだから「せんずり」だなんてスラングなど使わず「マスターベーション」とか横文字の回りくどい言い方で是非ともお願いしたかったものだが、この日は安心の男性教師に囲まれ、また男子生徒の前で話すという安心感が青木センセイをこうもフランクにしてしまったのだろうか。


俺たちとしては学校で、教師の口からこんな下品な言葉が聞けるとは思わなかったわけで、また、その「せんずり」という言葉を使うときに青木がなぜか必ず両手をシュッシュッと、まるで忍者が手裏剣を投げるような奇妙な仕草によって行為を表現していたのもあって、ただただ口をあんぐり、眼前にたたずむ一人の下品な大人の独演会に圧倒されるばかり。

 

「はて、、青木先生、、一体そのユニーク手法はいったい・・・」

 

多分俺たちより他の男性教師の方が驚いたに違いない。

それから先、青木の青春時代、そして青木と奥さんとの出会いに及ぶとてもチープな15分のストーリーで終了。純愛を説く青木の青春ストーリーそっちのけで、男子生徒はみな青木の特殊な手淫法についてアツく意見を述べ合っていた。それにしても冒頭の質問は一体何だったのか。

≪青木は変態≫

その後にも他の男性教師から色々と性にまつわる色んな話があったのだが、残念ながら青木の手裏剣以外生徒の心には何も残らなかった。


それから5ヶ月くらい経った頃だろうか。

前回のおさらいのつもりか、第二回「性別集会」が開催された。前回のおさらいのつもりなら「青木の手裏剣」以外心の中に残るものは無い。今度は一体何のカミングアウトが聞けるのだろうかと、我々はちょっとしたフェスティバルのような意気込みで第二回に参加したのであった。

「おらぁ!!だまらんか!!」というお馴染みの無意味な怒号は前回と一緒であり、今回もピリピリとした空気が演出される中で二回目の「性別集会」は開催された。

前回の主役・青木は早くも「殿堂入り」したのか、または出禁になったのか、今回は後ろの方で腕を組んで眼光鋭く全体を見渡している。うーん、残念、今回は出番は無さそうだ。

第二回の始まりは坂本という若い国語教師の「イカだってきもちいいんです」というタイトルの大変イカしたスピーチだった。

若手教師が前座をするようになり、ますますフェス感が増してきた。それにしてもつい最近女と結婚したばかりの男が延々語ったのが「イカの後尾」のお話でビックリ。動物奇想天外とはこの時の坂本センセイのことである。


「と、いうことはつまりだな、タコだってきもち・・」
「・・坂本君、もういい」

多分教師達もトップダウンで降り掛かって来たこの「性別集会」に戸惑っていたのかもしれない。何を話せば良いのか、教師たちもきっと試行錯誤なのだろう、それを印象付けのが次に上映された映像資料の驚愕の内容だった。


「坂本先生のイカの話、大変参考になりましたね!」と心にも無いことを口走りながら現れたのが井手という教師。背が低いくせにバネだけは一丁前、動きに躍動感があるくせに、鼻がプツプツしていたので「鼻イチゴ」と呼んでいた井出センセイ。この鼻イチゴが用意したのがプロジェクターに映し出された性教育ビデオだ。これがもう、凄かった。

前半~中盤にかけてはよくありがちなカラダの仕組みや二次成長、男女の違いと言ったいわゆる性教育概論的な内容。ここまでは大したことは無く今更驚くことではない。前半を一通り見せ終わると井出は突然ビデオを止め、「キスをすれば子供ができるとおもっていたひと、いるか」と尋ねて来た。

グリム童話か」と全員シカトしてると「先生は、高校までそう思ってました」とおっしゃる。「・・で?」と待ち構える我々をよそに、鼻イチゴ先生はそうおっしゃるとクルリとプロジェクターのほうをお向きになって、粛々と後半を上映し始められた。

「ただのカミングアウトか・・!」

後半がスタートするとそこから先はお悩み相談のコーナーがスタートだ。それまでの図解やイラストなどが次々に切り替わる映像とはうってかわって、スクリーンに登場したのは二人の中年男女。

片方は内科医か何か、とにかく白衣を来た医者で、もう一方が世の中の悩める少年からのハガキを紹介し、その解決法を向かい合う医者に尋ねる係のおばさんだ。

マスターベーションをしすぎるとバカになると聞きました。本当でしょうか。」という比較的ライトな質問に始まり「女のほうがエッチだというのは本当でしょうか。」なんていう都市伝説の検証や「乳首が痛いです。」などと言う苦情の類も寄せられていた。

嫌みなほどに爽やかなおばさんの口から放たれる性教育用語の数々、それに対して具体的なデータや堅苦しい用語で逐一応えて行く医者とのやり取りに辟易しはじめた頃、スクリーン上には会場を混乱の渦へと飲み込むハガキ職人からの一通のお手紙が、例のおばさんの爽やか口調で読み上げられた。

『尿道に針金を入れると気持ちいいと聞きました。本当でしょうか?』

「なにッ・・・・!」教師達の引きつった顔が思い出される。

医者「尿道にモノを入れると気持ちいいとされていますが、その結果とれなくなる人が時々居ますので絶対にやめましょう。」
おばさん「気持ちいいんですか?」
医者「はい。尿道にはですね○○という腺が・・・」

会場はざわついた。

性教育とは言ったものだが、まさか生徒の知らない新たなテクニックを教える手ほどきの場になろうとは教師の誰も思っていなかったことだろう。このままではこの学年全体を変態にしかねない・・・、会場の異様な雰囲気を察知し、プロジェクターの横でキョロキョロする鼻イチゴ。


おばさん「みなさん、尿道には絶対に針金を入れないでください」
医者「そうです、絶対に尿道には針金は・・・」

≪尿道に針金≫

その後他の教師からも色々と話があったとは思うが、残念ながらこの新たな性知識以外に俺たちの心に響くものは無かった。

 


話はこれで終わりではない。

性教育ビデオを上映した鼻イチゴこと井手だが、何の因果かこのしばらく後、最高のタイミングで「尿結石」で学校を休むことになり、時期も時期だけに当然ながら「尿道に石を入れた」という噂を立てられることとなった。