僕らが中指を立て始めた時期

中指を立てる、いわゆる「Fuck You」のジェスチャーとその概念を知ったのは小学3、4年生の頃、今から26~7年前のことであった。その時をはっきり覚えているのは印象的なエピソードがあるからである。

その当時いつも一緒に遊んでいた4人グループのうちの一人である小峰君という比較的おとなしい子が、ある日家の中から「おーい」と、自宅の窓の下に遊び仲間たちを呼びよせ、「なに」と近づいてきた僕らに向かって窓越しにピーンと中指を立てたのを今でも忘れない。何かしらんけどとにかくものすごく得意げであった。

全員その中指の意味が分からず外から「それなに」と小峰君に意味を聞くと待ってましたとばかりに小峰君、「『バカ』って意味さ。」と説明してくれた。なぜ小峰君に家の中からバカなどと侮辱されたのかは置いといて、実際バカだったからか「ヘエそうなんだ...」と感心してその日から遊びの中で中指を立てるのが流行ったのを覚えている。

 

このジェスチャー自体、発祥の地であるアメリカでいつうまれたのかは知らないが、少なくとも自分の周りに一気にメジャーになったと思われるのは小峰君からカマされたのほぼ同時期である。それ以前年代問わず殆ど使っている者はおらず、いたのかもしれないが気づかれないくらい一般的でなかったという印象がある。

27年前というこの時期が全国共通のものかどうかは分からないが、大体同じようなタイミングでわが国において市民権を得たように思えてならない。このあたりは自分の記憶と肌感覚を頼りに書いているものであるし地域性とか学生か社会人か、何の仕事かと言ったその人の立場によって様々であろうと思われるので、色んな人の意見を聞くなりしてきちんと調べてみなければならないと思う。

 

ただこのジェスチャーというのもの、結局はアメリカから輸入されてきた"借り物"の表現である為か、わが国では本国ほど深刻な意味に捉えられていないように思う。ブーイングもしかりだが輸入品であるためか妙にうそっぽいし、その表現が意図する事の本気度がいまいち伝わってこないのである。

中指を立てることに関しても「アメリカでそれやったら半殺しか死ぬか」などというほんとかどうか分からない物騒な話を聞いたのは高校生になってからという鈍感さであったが、こういう甘い認識は俺に限らず特に珍しいことでもないように思われる。本家じゃないという甘えもあってか、国内では割と簡単に、冗談めかして使っている人も多いように思うのである。

というのも肝心のその意味というのがいまいち日本人にはピンと来ない内容というか、そもそも取るに足らないスラングだからといってきちんと理解し、周知されてこなかったのも原因ではないかと思われ、最初に俺に中指を立てたファックユー伝道師である小峰君にしてもこれを「バカ」と表現し我々に伝えたわけであるが、これはなにも彼特有の解釈でもなく日本人にとってはその程度の理解であったというあらわれかもしれない。

というのも件の小峰君以外の子供たちにしても、何らかの悪口表現であるという認識こそあれ厳密な意味は不明で、同じように「バカ」という解釈に落ちつき、同じ時期セットで輸入されていた親指を下に向けるジェスチャーはそこでは「アホ」と解釈されたのである。僕らに「月がきれいですね」並みの解釈を期待するのは酷である。

中指を立てられたらお返しに親指を下げて応じる。バカ、アホのやり取りぐらい口で言えよという気持ちになるが舶来品を得たら自慢げに使いたくなるのが人の常であり、輸入されたものを国内で加工し、独自の文化も生み出すのもまた然り。中指を立てるのではなく、逆に中指折って残り四本を立てるというジェスチャーが発明されるに至ったのだが、その意味が「ごめん」だったのが今思い返すととてもほほえましい。