海を渡った瞳リョウ

大学生のとき1年間だけ寮生活していたのだが、そこへスリランカから日本へ短期留学でやってきた若者を2、3日受け入れたことがあった。全員男で年齢は20前後だっただろうか。何かの用事で来日した彼らに寮の空いた部屋を貸してあげるという、まあその程度の事だったと思う。

一応寮の食堂を使っての交流会などして、では本日も世界は平和でしたねNo Warですねシャンシャン、おやすみなさい、と各自部屋に散って、、、行くはずもなく、どうやって始まったか覚えていないがその後同じ若者同士、ひとつの部屋に集って夜のお楽しみとばかりに年頃の男同士のアン・オフィシャルな話をする事になったわけである。

彼らが一体何者なのかはただ宿を貸しただけの我々もよく分かっていなかったが後に聞くと彼らはスリランカでも有数の大学や大学院に通う優秀な学生らしくそこそこの日本語が出来た為、会話は問題なく成立していたのを記憶している。

最初はお互いの文化の違いについて当たり障りのない程度で意見を交わすが、そんな堅苦しいやり取りも、若者らしい下らない話になればイヤでも盛り上がる。学校の話、スポーツや音楽など文化の話、そしてやはり「下ネタ」の安定性は万国共通だ。

好きな女の話から男女交際のアレコレに話が及ぶとそれまではどこか他人行儀な部分があった両者は完全にくだけた雰囲気に。話は大いに盛り上がり異文化交流の楽しさを初めて実感した次第。

ただし、そんなくだけた雰囲気の中でも一度だけピリっとした瞬間があったのが忘れられない。それは、彼らの中の一人が腰に巻いていた布(名前を失念したが)が欲しい、何かと交換してくれと我々寮生のうち一人がしつこく言ったときのこと。どうしてもダメかと食い下がるとスリランカ人の彼は言った。

「これは命の次に大事なもの。他の人に渡せるものではない。」

言葉の問題で若干ストレートになってしまったかもしれないし、また言いたいことの半分も伝え切れなかったかもしれないが、おそらく民族の誇りとかそういう事も伝えたかったのかもしれない。一応笑顔交じりに言っていたが、表情からはそういう厳しいものが感じ取れた。幸いそれ以上の話にはならなかったが、やはりこういう話題には繊細になるべきだと思い知った我々。

その後何事もなかったように続く会話が本格的に下ネタに支配されたとき、ついに「オウ、こいつらに日本のエロ本見せたるか」というジャパニーズ・スケベ・セッタイのファンファーレが鳴り響いたのであった。

聞けば、スリランカではエロ本を売る事は禁止されているらしく、勿論実際には買う人は多く、然るべきルートでコッソリ買えるらしいのだが、彼らに関して言えば「ほとんど見たことがない」と恥ずかしそうに言う。

「おうおうおうおう、そいつァ見せ甲斐があるってもんやデェ!」

そう意気込んで我々寮生のうちの一人が持って来たのは忘れもしない「ちんカメ」という、いわゆる「オシャレエロ」のハシリとも言えるヌード写真集である。

被写体はAV女優多かったがファッショナブルでポップ方向に寄った見せ方が新しく、なんといいますか、まあ、画期的な一作ですね...。説明がクドいとキショクワルいのでこの辺でやめておくが、とにかく俺は≪ちょっとコレは早すぎるかしら・・・≫と思いつつも、それを「これが侍JAPAN、日本代表や!」とばかりに彼らの前に叩きつけたのであった。

スッと手を伸ばすスリランカのフレンズ。しばらく「ちんカメ」を取り囲み食い入るように眺めている。しばらくすると、オイと呼んでもアッチの世界に行ったように反応は悪くなり、ニヤけ顔のままでこちらの呼びかけを無視するのである。

正直予想はしていたが、しばらくしたのちスリランカ人の一人が神妙な面持ちで「これをくれ」などと言い出す。こ、、言葉の問題で若干ストレートになってしまったかもしれないし、また言いたいことの半分も言ってないのかもしれないが...ちょっと唐突すぎやしませんか!

「ち、ちんカメだって命の次に大事なもの。他の人に渡せるものではない...!」

当然これを拒否することになったのだが、いやあもうその時の欲しがり方のハンパなさときたら、あまりにしつこいので俺も厳粛な表情でもって「日本人とオナニー文化」などをきちんと伝えようと試みた次第だが、めちゃくちゃ説得力がなさ過ぎるし、なかなかどうして先方もよっぽど欲しかったのか渋れば渋るほどに彼らのしつこさは増す一方。ついに感極まったスリランカ人の一人が「仕方ないか...」の表情でこう言った。

「先ほど欲しがっていたこの腰布をあげよう。」

命の次に大事なモンくれるんかい!!!という感じでかなり狼狽したが、流石に命の次に大事なものをこんなブックオフで買った500円のエロ本と交換で貰うのは憚られたので「ちんカメ」はもう海外に娘を嫁に出す親の気持ちでタダで譲ってあげた次第である。

海を渡った「ちんカメ」には、かつての名女優「瞳リョウ」や「桜井風花」が載っていた。彼女たちは今もスリランカのどこかで活躍しているのだろうか。