俺たちに残された「幾つに見えますか」の残党との闘い

「私、幾つに見えますか」が極めて迷惑だという話がある時期盛んに行われた成果なのか、最近ではもう誰もが知る迷惑質問と周知され、もはやそういう話も聞かれなくなっているように思う。我々はこういう具合にして一つ一つ人間関係を微妙にするものを克服し、改善していくのであるが、世の中には先の質問と性質は似ているものの、地味すぎて問題にされていないケースがまだまだ残っているように思われる。「幾つに見えますか」のいわば残党である。今日はその辺を明らかにし、その迷惑さについて一言いいたいと思っている。

例えばあるものの金額を問う「いくらだと思いますか」という質問。もしくはかけた苦労を「何年かかったと思いますか」などと聞かれる場面に遭遇したことは無いだろうか。進行側が聞く側に対し質問形式で投げかけながら、その答えに対する何かの説明・進行をする場面、1対複数の説明の場やセミナーなどで遭遇しがちな場面である。

 

「そこのアナタ、このスゴいヤバいサムシング、幾らだと思いますか?」

「うーん、えーと、分かりませんがすごいとはいっても、せいぜい100万円では?」

「ふふふ、そう思いますよね。しかし実はなんと...1000万円なんです!」

「我々素人の想像の遥か上をいっていてめちゃくちゃ高くてスゴイデスネー!(会場ザワザワザワーー!!)」

 

こういうやり取りを一度は経験したことがあるのではないだろうか。

これらは当然、「君達の想像を遥かに超えているのだよ」という質問者側の自信を背景に堂々と投げかけられる質問なのだが、その実狙ったほど上手くいくものではないのも事実である。

実際にこの手の質問を投げかけられる側になったときの緊張感、必要以上に気をつかうあの感じはマジで迷惑である。シナリオは上記のとおりなのは分かっているのだから、自信満々で来る相手方にこちらは花を持たせねばならないのである。「でもお高いんでしょう?」にも似たかませ犬担当といえばいいのだろうか。

「お高いんでしょう」は事前の打ち合わせどおりだしそもそもアイツらはあれが仕事だから良いのだが、我々が経験するのは専門外のことを何ら打ち合わせもさせてもらっていない一発勝負。上手にバカの振りをして適度に不正解を出すなんらメリットの無い悲しいクイズなのである。

往々にして我々一般人はあまりに物事に無関心で彼らの思惑にはハマらないケースが多い。その分野に疎すぎて、皆目見当もつかないもんだから「なんと1000万円なんですよ!」といいたところでこっちが「分かりませんがせいぜい1億円では...?」の遥か上を行く答えを無邪気に発表してしまい、「いや...そんな高くないんすよね...」などとても微妙な空気にしてしまうことのほうが多いのではないか。俺はそれを結構な頻度で起こしてしまい、都度、大変申し訳ない気持ちでいっぱいなのである。

 

例えば先日、仕事中に行ったとある製品の説明会でのこと。

「じゃあ皆さん、この△△(製品名)なんですがー、一体何℃まで耐えられると思いますかッ?!」

大勢が見守るその説明会会場にて、ものすごく自信満々な表情でこの質問を我々参加者にぶつけてくる担当者。彼は「じゃあ―」と参加者を眺めながら言うと、「アナタ」と、大勢の中から俺が当てられた。不正解を出しそうなマヌケ面を探していたのだろうか。

俺は考えた。「ふふふ、実は~...」で始まるあのストーリーの呼び水となるべき、適切な不正解は何度か...。それまでの彼の説明から、ものすごい材料を使い、特殊な製法、それを今までにない方法で組み立てということだからコレは恐らく...と思いつつも、まあ俺に求められているのは所詮かませ犬、思っている数値よりやや下を言い、「へへへ、○℃ね、フフフ、○℃かぁ。うんうん、分かる分かる、手に取るように分かるよォ、アンタがたトーシローさんがたの考えることはヨォ、まあそう思うのも無理はございやせんがァねェ...じゃあいくぜ、聞いて驚けよ、正解は××℃ジャイ!」と持っていってもらうのが俺の役目...ということで本当は400℃ぐらいまでいけるんじゃないかなぁ、と思っていたのを、若干安全を見て

「いやあ、すごいとはいってもォ、せいぜい350℃ぐらいじゃないんですかぁ~?(チラッチラッ)」

なんてバカのフリをしたつもりだったのだが!マズいことに正解はその遥か下、「うーん、280℃なんですよねぇ...」だったのである。「うわァ...何か知らんけど大したこと無い感じィ...」と思ったのは俺だけではなく、何やら会場全体が≪Oh...≫と、そんな雰囲気に。

その時の気まずさといったら相当なもので、トーンの下がった担当者、苦し紛れに「いやあ、そこまでいっちゃうともはや『夢』の世界ですがねえ(笑)」と俺がものすごいドリーマーであるような逃げ方をするではないか。俺にしてみればとんだ貰い事故である。担当者はどぎまぎするし、会場は微妙な空気だし、何だか俺が悪いことしたみたいで大変に心苦しい思いをした。

そんなわけで、我々はようやく「私、幾つに見えますか」の呪縛からは解放されつつあるのだが、一方でまだまだ周知・対策のなされていないこれらのノーマーク・迷惑クエスチョンにも今後目を向ける必要がある。

当面のところ、確実な対策としてはなるべく「分かりません」で逃げるしかないのだが、「分かりません」「見当もつきません」で逃げようとしたけども、自信満々の相手による「いや、言ってみてください。大丈夫です、どれぐらいだと思いますか、サア!答えてみんシャイ!トラストミー!」についに折れ「じゃ あ、1トン、ですか...?」といったら「いやあ、さすがにそこまでは重くないでしょう...あなたはバカないしは阿呆なんですか(苦笑)」というような、強烈なイナシをかまされゴミクズ扱いを受けるケースも確認されているだけどさ、お前が答えろ答えろいうからじゃろがい!!!!!

とにかく我々は勉強し、物事を知るしかない。森羅万象、あらゆる5W1Hに正解するためではなく、絶対に正解しないため、適切な不正解を知るために。全てはその場の空気を乱さぬ為だ。もうあの手の質問やめてほしい。