中学のバスケ部にシンジという男が居た。
バスケットは素人であり、それを補う運動神経も不十分であったシンジ。
極度の近視であり、登校中、木に正面からぶつかったのを目撃したときは衝撃だった。
部活は休みがちで、1年の終わりにあっさり退部してしまったため、部活中の彼についてほとんど印象に残っていない。このようにシンジは見事なまでの幽霊部員だったのだが、彼が部活を休むときに毎度理由にしていたのは常に骨折であった。
彼のバスケットボールのキャリア、その始まりも骨折と共に。
入部して間もないシンジは下校中に転倒した際に腕を骨折し、入部即長期通院。ここから長きにわたって部活を休むことになる。
数ヶ月後、ようやく骨折からようやく復帰してきたシンジは半月もしないうち、部活の練習中にまたしても骨折。ボールをキャッチしこね、指を骨折してしまったのだ。
更にであるが、指を骨折している最中シンジがさらに別の箇所を骨折したという連絡があった。
寝ているところを酔っ払って帰ってきた父親に蹴られ、わき腹にヒビが入ったのだそう。とんだ珍プレーである。
このように骨折の限りを尽くしたシンジは「動けない」という切実な理由から当然のようにバスケ部を引退。恐ろしいことにバスケ部を辞め、スポーツから離れたその後にもコンスタントに骨折をしていたようなのである。
これをお読みの皆様もきっとそうだろうが、俺だって最初の頃は「そんなに骨折するはずが無い。絶対ウソだ。」と、シンジの骨折を真に受けず、部活をサボりたい、辞めたいがためのウソだと思っていた。
よく考えてほしい。普通の人なら一生に何度するか分からない骨折を次から次へとっかえひっかえ。あるときには二股を掛けたりして、シンジの言うことが真実ならば、それは常に骨折に不自由しないいわば「骨折プレイボーイ」ではないか。
そんな悲しいプレイボーイがあってたまるものか。
そんなシンジとたった一度だけ、共通の友達がいた関係で普段は殆ど遊ばない彼と一緒にゲームセンターへ行った事がある。
俺は忘れもしない、そこには「壁を上手く殴るとエッチな景品がもらえる」という「パワー&エロ」で構成されたバカが考えたようなクソみたいなゲームがあったんだ。詳しく説明するのも脱力モノだが、このゲーム、殴った力が電飾に彩られたデジタル式の目盛りに反映され、「ドゥルルルーン」という派手な音とともに上昇する目盛りが、「FEVER」と書かれた範囲の中に収まったら大成功。晴れて景品である年季の入った古~いAVとご対面、という大変カスみたいなシクミなのである。何がFEVERだよ。考えたやつ出て来いよ...。
ゲームセンターでは生き生きするタイプなのかはたまた滅多に遊ばない俺の前で格好をつけたかったのか「強すぎてもダメ、弱すぎてもダメ」と説明しながらゲーム台に向かったシンジ。
AV目当てに勢いよく壁を殴った次の瞬間...、
シンジは骨折した。
「あふあおふ、あふおうふ」
エラ呼吸をメインにして生活するか弱い動物の断末魔のようなとっても地味な悲鳴がゲーセンに響く。
「シンジが骨折するときってこういう感じなんだ。」そんな風にシンジを眺めていた。
シンジが骨折したことよりもシンジの悲鳴がとても地味だったことに大変驚いたわけだが、ともかくこの男は確かに、そして簡単に骨折した。骨折はウソではなかったのである。
シンジとの思い出はそれが最後。バスケ部を辞めた以上、シンジと俺とを繋ぐものもなうなり完全に疎遠となった。最後にその名前を聞いたのは中学卒業後、「シンジが俺たちの卒業アルバムを3,000円で売ったらしい」という割とどうでも良い噂話に登場したときであった。
完
イラスト:盛岡くん
※本作は過去に盛岡さんと合作で記事を書いていた時のものですが、途中でお互い忙しくなった為お蔵入りしていたものをこのたび本ブログで復活させてみました。