違反学生服の回収とヤンキーへの販売ビジネス

皆さんは違反制服をご存知だろうか。一般には変形学生服と言われているらしいが、俺の地元では「違反制服」「違反ズボン」と呼んで慣れ親しんでいた為こう呼ばせてもらいたい。

それはつまり何かというと簡単にいえばヤンキーが着ているサイズ、デザイン面が個性的なワルい学生服のことである。ベースのデザインこそ皆様ご存知の普通の学ランなのにコートのように長いものから逆にめちゃくちゃ短いもの、ズボンを見ればジーンズタイプやフレアカットなど制服のデザインを著しく逸脱したもののことである。

違反制服は地域の学校の提携先でもあろうはずの街の学生服屋で普通に売っており、信じられないことに欲しいと言えば「まいど!」なる愛想の良さなどもみせつつ積極的にカタログを出し自由に閲覧させてくれる。カタログには警棒やヌンチャク、メリケンサックなどの”武器”も載っていることがあって、一端の街の学生服屋がこんなモンを堂々と商いしていいのかという気になったものである。

もはや時効ということにしてどうかお許し頂きたいのだが、そんな違反制服を、俺は中学生のときにヤンキーの皆さんに売りさばいていた時期があった。

どこから仕入れるのかという問題だが、そこは裏ルートの活用である。気になる仕入れ方法は実に簡単、「生徒指導室」と呼ばれる教室に侵入し盗んでくるだけである。

「生徒指導室」とはその名の通り、素行不良者の指導(つまり説教)と、その際に没収した物品の保管がされている部屋のこと。いわば学校の警察署のような場所である。各地各年代から仕入れられた違反制服も当然ここに着荷していた

この生徒指導室だが、当然のように職員室の真横にあったので周囲をうろついていると怪しまれるのだが、そこまで頻繁に生徒を指導する機会も無かったのか、通常はもぬけの殻でいわば倉庫状態になっていたのである。

幸いその生徒指導室というのが丁度あの当時入っていたバスケット部の屋外練習場近くであったため、例外的にバスケ部だけはその周辺をウロウロしても別段怪しまれないということに気づきそれを利用した格好である。

「生徒指導室にはエロ本が沢山保管されている」といういにしえの伝説を信じて侵入したのが事の発端。生徒指導室は一カ所だけ開いている窓があり、仲間で手分けして見張り役、侵入役、運搬役を分担した。

残念ながらエロ本は初回に大乱獲されあえなく絶滅したが、それをきっかけにそこに広がるレア・アースの存在を我々は知ることになるのである。それこそが今回の主役「違反制服」である。

忘れもしない、初めて侵入した生徒指導室の内部は独特の雰囲気だった。あれは呼び出されたりしない限り入る事の出来ない、つまり選ばれし民だけが入る事を許された魅惑の部屋。中に入れば選ばれし民が先生にはぎ取られた奇抜なデザインの違反制服たちがまるでアパレルショップの様に丁寧に展示、保管してあった。没収品は多岐に渡り、スカジャンやMA-1、竹刀や折りたたみ式の警棒、漫画本に花札、おもちゃの類も多数発見された。つまり「学校に持ってきてはいけないもの」が没収されここに集っているわけである。

生徒指導室に大量の違反制服が保管されている事を知った我々は、それと同時にそこに誰にもバレずにアクセス出来る事を知ってしまったのである。

 

「我々の手に取り返そう」

 

これが誉れ高き没収品十字軍結成の瞬間である。我々などと言いながらトランプやゲーム、漫画本をバレない程度に少しずつ回収してはバスケット部の部室に持ち込み私物化する。最初はささやかな楽しみだったこの活動も、幾度と無く行われたかつての十字軍による聖地回復運動と同様、回数を重ねるに従い徐々に首をもたげるよこしまな気持ち。

 

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「違反制服はヤンキーに売れるのでは」

 

ある時そう気づいたのである。今まで見向きもしなかった違反制服を見て、そう思ってしまったのである。そして案の定ヤンキーが喜んでそれを買うのである。

一着数百円のささやかなビジネス。今思うとハイリスク・ローリターンなのだがこのビジネスの素晴らしいところは、売った商品がしばらくすると再び我らの流通センター(=生徒指導室)に舞い戻ってくるところである。違反ズボンは着用しているのが見つかれば必ず教師に没収され再び生徒指導室に里帰りしてきてくれる素敵な流通システムなのだ。

そしてある日気づくのである。

 「ひょっとしてコレ...永久機関では...」

何しろヤンキー市場に制服を流通させなければならない。

最近違反ズボンを失ったヤンキーの情報が入れば「新作が入りました」と営業をかける。県内有数のマンモス校だったためヤンキーの数もマンモス級。市場はデカい。

市場調査もぬかりなく。今の流行をキャッチしなければ危険を冒して手に入れた違反制服は行き場をなくして手元に残ってしまう。それこそ不良在庫である。上手い事言っちゃいました。

俺はまじめな中学生である。違反制服は手元にあってもマズい代物、それが売れ残れば面倒である。膠着在庫を作らぬために、巷の違反シーンでは一体何がホットな違反なのかを知るために...すべてはお客様の満足のために...!「何見てんだオラ」リスクにおびえながら、今まで馬鹿にしていたヤンキーのファッションをチェックする日々なのであった。

そして或る日のこと、俺はこの実に手間のかかる循環型違反制服ビジネスにおいて、そのリピート率を大幅にアップさせるある方法に気付く事になる。それはまさに禁断の手法...。

「先生にチクればいいじゃないかしら...」

まさに鬼畜である。

《先生、○○君の制服の裏地がちょっと変でした。気のせいでしょうか。》
《先生、○○君の上着はライダースタイプ、ズボンはカーゴパンツタイプ、なお内ポケにはメリケンサックを所持してますがお気づきですか。》
《先生、違反制服を持っているヤンキーのリストがありますが1,500円でどうでしょうか》

自分で違反制服を販売し自分で通報する。

正直これは真のゲスのやる事と判断し実行に移すことは無かったが、結局この販売活動は俺が部活を引退し生徒指導室に近づけなくなるまで続いたのであった...。

 

 

※イラスト:盛岡