華氏100度

アメリカに来てもう8ヶ月経っているが依然英語には苦労している。日常生活に使う英語は何とかなってきたし、仕事面では共通言語となる専門用語があるためかこちらも何とかなっている部分があるがそれも本当に最低限というレベル。

色々と苦労を挙げるとキリがないが、思ったより苦労しているのが曜日、月、度量衡、数字の数え方といった基本的な知識である。

曜日はいまでも脳内で「サンデマンデチューズデー、ウェンズデー」のあの例の歌をうたわないとすぐには出てこないし、なんならその歌をうたっている最中でさえ木曜日はすぐには出てこず「スースデイ...」とゴニョゴニョいってごまかす始末。俺は今でも木曜日がわからないので木曜日の話をするときは「スースディ...」とゴニョゴニョいっている。

月もまだ怪しい。4月はエイプリルフール、5月はメーデー、6月はジューンブライド、など日本でも馴染みのある用語を基点に思い出すしか手立てがなく、なんか知らんけど10月ぐらいから始まる「ッセンバー!」キャンペーンのあたりになるともうお手上げであり「ムッ、8本足がオクトパスだから...オクトーバーは8月や!ドヤア!(不正解!)」などと大卒とは到底思えない恥ずかしいムーブをここアメリカで疲労しているのである。

中でも一番しんどいのが度量衡、つまりアメリカが独自で採用しているインチ、フィート、オンス、ガロン、マイルといった単位の類である。たまたま仕事柄インチはよく使うし、車に乗っていると時速の把握としてマイルも何となく覚えてくる。問題はそれ以外の、普段使わないが時々使うために永遠に覚えられる気がしない連中である。

1オンスは28.3495グラム、1フィート=304.8など全く語呂もくそも無いような暗号では覚える気力も失せるというもの。そんな一番しんどい度量衡の中でも最も手ごわいのが温度。なんと温度の表記も違うのである。

ここアメリカでは我々の使う摂氏(℃)とは違う華氏(°F)が使われている。摂氏と華氏、中国を二分する王朝のボスみたいな感じがするしどうか仲直りをして天下統一早期希望といったところなのですが、この摂氏華氏変換がもうめちゃくちゃややこしく一部のよくある華氏度は暗記で分かっていても根本的な仕組みについては俺は今でも全く理解出来ていない。

「摂氏を出すには、華氏から32を引いて1.8で割ったらいいだけだろ」

かつて先輩社員がそう言って説明してくれたものであるが「声をかけて楽しく話すだけだろ」と言えばナンパが出来そうな気もするし、「音に合わせてノるだけだろ」と言われれば俺もクラブにいけそうな気がするし、「ご飯の上にカツを乗せるだけだろ」などと言えばカツ丼も容易く聞こえるわけだが現実はそうではない。ナンパもクラブもカツ丼も俺には出来ない、作れない。

何の話をしていたか忘れたがとにかく「~すればいいだけ」という言葉は物事を簡単に聞こえさせる魔法の言葉であるものの、現実問題として引き算と割り算がタッグを組んで攻めてきたら俺はギブアップなのである。

渡米してすぐのころ、アメリカで初めて熱が出たときにホテルで体温計をかりて熱をはかると表示された数値がまさかの「100」であった。華氏100度。ヤバい響きである。「百度バイドゥ)じゃん」などと中国IT企業・ジョークもついつい口から出るというものである。いやあ100ですか、そう言われると頭が熱い、重い。体感的には40℃ぐらいありそう。

今すぐに俺が一体摂氏何度なのか知りたいと、地球上であれば既に血液が沸騰しているであろう100度の熱にうなされながら朦朧とする頭で頑張って32を引いて1.8で割ってみると「37.7℃!!!」と割と可愛い感じの体温でめちゃくちゃガッカリ。そう言われるとちょっと顔が致命的に不細工な点を除いてはそのほかは割と元気。病は気からである。