店長を呼んだことはあるか

「店長を呼べィ!」

先日アメリカのマクドナルドで怒り狂った客がレジにやってきてレシートを片手に「値段がおかしい」というような内容のクレームで騒いでいた。

さすがアメリカというべきなのか、そんな客の対応に慣れているのかハナから真面目に取り合うつもりもないのか、呼ばれた店長は表情一つ変えずに淡々と質問にだけ答えていく。次第に怒っている側のほうが恥ずかしくなって来たのか怒れる客も何かのスラングと思しき捨て台詞を残して去っていく。店員は動揺一つ見せず何事もなかったように接客を始め、客も苦笑いするだけでまた通常の店内が戻ってくる。

空港でも見たが、ここアメリカでも何か問題があると割と店長や上司呼べと叫ぶのだ。上の人間を呼んでお前らを叱り付けさせるというよりも、責任のない人間に何を訴えても無表情で「ああ、はいはい、そうですか」とスルーされるだけだからかもしれない。

 

皆さんは自ら店長を呼んだことがあるだろうか。俺はまだ一度もない。昔松屋の「うまとまハンバーグ定食」を初めて食べたときに美味すぎて店長を呼ぼうとしたことはあったものの、基本的には俺は小心者なので店長を呼ぶことは一生ないだろう。何かあっても我慢するし、注目を浴びたくないものである。

しかし望みもしない理由でかつて「店長が来た」ことはあった。店長が俺に謝りに来たのである。異物混入で。

 

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この写真は今から5年前だろうか。都内のとあるファミリーレストランでホットケーキを頼んだときに中から出てきた異物の写真である。滅多にファミレスに入ることも無く、また殆どホットケーキを食べたことの無い俺であったが、あの日は同じ月に控えていたオモコロのイベントに出るライターの宇内くんの為に、同サイトのライターの盛岡さんと一緒に早朝から集まりネタを考えていたのではなかったと記憶している。朝から頭を使うとあって、朝のコーヒーのお供に何となくホットケーキでも食べたくなったのが発端である。

異物の存在に気がついたのは口の中。「ガッ」という歯ごたえに最初は焼き加減がキツめのところが硬くなっているのかと思ったがそんなわけがあるはずもなく、口から離し目の前で見て「異物だーー!」とビックリ。

あの頃は丁度、何故かしらないけれども世間を異物混入事件が騒がせていた頃だった。色んな外食チェーン、食品会社の製品の中に異物が見つかり、杜撰な管理体制や後処理が責め立てられていた頃だったのだ。そして度重なる異物混騒ぎに疲れた人々のストレスなのか、例外的ではあるが、ときに発見者側がバッシングを受けるケースも出てきたものである。

そんなタイミングでもあったものだから俺は見つけてしまった側なのに企業の炎上事件の起点になっちゃうのでは、この問題を変に扱うと俺も何かに巻き込まれるのではと妙にドキドキしたものである。

宇内くんと盛岡さんは「おおおお、店長呼べ!店長!」「店ッ長!てっんっちょう!」と未曾有の店長呼び出しチャンスだと嬉しそうに騒ぎだしオドオドする俺を急き立てる。その目は俺には「出方次第ではワシらのメシもタダにして貰おう!」というスケベ心が透けて見えたものである。

目の前に現れた異物に「い、い、い、異物...」と緊張する俺の横を丁度よくタイミングよく近くを通った店員を呼ぶその手の挙げ方も不自然極まるもので、何も知らずにこやかに近づいてきた店員に内緒話のような小さな声で曰く、

(ホットケーキに、コレが入ってました...)

とささやいて伝える次第。キャア!と軽く悲鳴をあげた女性店員が果たしてマジの反応か演技だったかは知る由もないが、それから5分後、奥からコックのような服装をした店長がホールの女性と一緒に現れ申し訳なさそうな顔で深々と頭を下げて開口一番お詫びの言葉。

なんでも泡だて器の部品が落下しそのままホットケーキになってしまったのだそうだ。その場で原因と対策を丁寧に説明する店長の顔には「どうかっ!どうか穏便にたのんます...(チラッチラッ」というメッセージが読み取れたが、一方の俺はというと、そんなことよりも周りの客が何事かとチラチラ見るのが気になって「大丈夫です、問題ないです」と早々に切り上げようとし、「ホットケーキは作り直してきますから」という当然の申し出に「ありがとうございます!」などと感謝する始末である。

「タダにできたんじゃないの」

などと言う宇内くんの台詞、俺も第三者だったら言っていたかもしれない。店長を実際に目の当たりにすると結構緊張するものである。今回はつい来ちゃったが自分では絶対に呼ぶまいと決意を新たにした次第であった。