ガラガラヘビがやってくる

とんねるずの18枚目のシングル「ガラガラヘビがやってくる」という歌が流行ったのは俺が小学生の時。1992年だった。

俺の通う小学校ではどういうわけか冬場にはあの歌に合わせて全校生徒が縄跳びをさせられていた。通っていたのは全校生徒1000人近く、県内でもトップレベルの生徒数を誇るマンモス校。なぜ「ガラガラへびがやってくる」が選ばれたのか分からないが、1000人近い生徒が、「全校体育」という朝の全校生徒総動員の行事の中であの歌に合わせて一斉に縄跳びをする異様な光景は今でも忘れられない。

縄跳びをしながら俺は、子供ながらに気付いていた。この歌、「ガラガラヘビがやってくる」はかなりのところまで踏み込んだセクシャルな内容を含んでいる事を。まだあの当時、性知識も皆無で詳しい事こそよくわからなかったが、テレビ画面上のとんねるずが、腰を激しく前後させているのを見てなんだか妙な胸騒ぎを覚えていた。

《この歌は多分、エロい歌だ...》

周りのキッズたちはただの楽しいヘビさんの歌だと思っているのだろうか、無邪気な顔で「誰でもコン!コン!コン!」なんて歌っていて、俺はインとかアウトとかそいういう方面について詳しい事こそ良くわからなかったが、

《この歌は間違いなく、相当ハレンチな歌だ...!》

そういう確信を持っていた。

生徒はともかく、セックスの一つでもしたことはあるであろうオトナの先生方が看過していたのは何故なのか。流行っているとはいえ男女の色恋、というかむしろ性をストレートに描いたと思われる歌詞の内容など全く気にすることもなく、みんな揃って爽やかな笑顔で爽やかな汗。朝の校庭に大音量で響く「何回もコン!コン!コン!」である。

子供ながらに「何かが間違っている、きっと大きく間違っている」と、そう思っていた。教育現場で堂々と下品な歌詞。だのにこの光景に違和感を抱いているのが全校生徒1000人余の中にあって、自分ただ一人なのだという驚き。孤独感に打ちひしがれた少年は縄跳びどころではない。

子供には到底消化出来ないであろうモヤモヤとした気持ちを抱え、俺は家に帰る。台所に立つ母親の背中。ラジオから聴こえてくる歌に合わせて、母親が歌っていた。

「な~んか~いもフンフンフ~ン♪」

ガラガラヘビがやってきた。俺の家にもやってきた。

確かに耳に残る歌かもしれないが、なぜあんなハレンチな歌が日本を席巻したのか。
自分ひとりを残し、地球は宇宙人に占領されたような、そんな気持ちになった。