アメリカで運転免許を取得した時の話

日本人がアメリカで運転免許を取得する方法というのは州によってさまざまで中には日本の免許があれば極めて簡単な手続きだけで免許が交付される州もあるが、基本的には学科試験、実技試験が必要な州が多いようだ。日本の免許を持っていれば適性検査のみで済むのはほぼ共通の様でハードルとしてはあまり高くないように思われる。

母国の免許をすでに持つならば渡米してすぐに全員が取得させられる社会保障番号、および自宅の住所を証明する自分宛のはがきや封筒等2枚を持参出来る状況になった時点でアメリカの免許を取得する準備はOK。町の商業施設などの一角にある運転免許証やナンバープレートなど自動車に関わる全般を取り扱う公的機関(ミシガン州ではSOSという名前)で簡単に学科試験を受けることが出来る。予約は必須。カウンターに並び、自分の順番が呼ばれると部屋の隅っこにあるテーブルに座っていきなり試験開始。言語を選ぶことが出来、ミシガン州の場合は試験は日本語で受けることも可能である。

タッチパネル式の問題を答えていくとこの日本語訳のヤバさに段々気づいていくのだが例えば「車間距離が小さいと車の前と後、どちらにぶつかるか」という問題については「俺が後続車にのりし者なのか、前を走る車側なのか教えてくれんか」と言った具合に車の問題というより途中から完全に日本語の意味を理解する読解力の問題になってくる。中には「そrは」などという変換ミスもそのまま残っているという事実からそのいい加減さ、ヤバさをわかって頂けるだろうか。間違ってよい問題数が決まっており、答えるとすぐに正解、不正解がアナウンスされ「あなたはあと〇回間違ったら終了です」も画面上に表示されるドキドキシステム。

晴れてこの学科試験に合格すると次は路上試験である。路上試験を行うことの出来るドライビングスクールの名簿を渡され、好きなところへ電話して試験を受けろというのである。試験はその辺の教会の駐車場で実施され、一端停止、バック駐車、縦列駐車を行ったあとはハイウェイ走行を含む路上試験の始まり、という流れ。

俺が選んだのは幸運にもこの界隈で最も甘いとされるスクール。馬鹿でもわかりそうな、その名もABC社である。結論としては難なく一発合格となったのだが、人によってはこの教会ステージで「一端停止が甘い」「車の整備不良」などという曖昧な理由で不合格とされて試験料金没収の上不合格とされる人もおり、従いこのスクール選びで試験の合否の大半ほぼ決まると言っても過言ではないのである。

この路上試験を受けたのが渡米して2ヶ月の頃だっただろうか。英語も拙い中で知らないアメリカ人と30分のドライブ。それだけでも結構緊張するというのにその直前になって路上試験中に助手席の教官から英語で必ず1つ質問を受け、それが路上試験における結構大事な採点項目になるというマル秘情報を知ってしまうといよいよ心中穏やかではなくなってしまった。

先輩駐在員にこの話を聞いても反応が芳しくない。皆同じく渡米してすぐの頃に試験を受けているためかこの質問の内容を上手く聞き取れずその内容が全くハッキリしないのであるが、確実なのは皆何かしら教官に質問を受けており回答を求められている事である。

「運転中にワーーっとまくし立てられ、分からなかったので何度も聞き直したら『もういい!』と怒られた」

「分からなかったので停車したら『ノーーー!』と言われた」

アメリカ人にマンツーマンでまくし立てられ、答えられないと不機嫌に呆れられる。恐怖である。この様な話を聞くと一つのことが解決しないままに話が進むと前の件をずっと引きずってしまい次のことが全く頭に入ってこない俺のようなタイプなどには地獄。放っておけない懸念事項である。

それからというもの得意のインターネットを駆使し果たして路上試験中にどんな質問がされているのかを特定しようと躍起になったものであるが調べども出てくるのはアメリカ駐在妻のブログばかり。それがまあ旅行へ行っただのメシを食ったの布団で寝ただのといった至極どうでもいい話ばかりで申し訳ないが役に立つ情報が全くないんですね。まあしかし俺の冴え渡るインターネット・リサーチ能力がその様な駐在妻のライフスタイルの中から有益な情報を見つけ出すまでに1日と要らず、結果としてある一つの間違いのない事実にたどり着いたのである。

「何か聞かれたらとりあえず『ショルダー』と言えばいいらしい」

これは『アメリカ 路上試験 質問 回答』という冴え渡るインターネット・キーワードで出てきたあるアメリカ駐在妻の方のブログに書いてあった一文なのだが、結論としてはこれを完全に鵜呑みにしました。だってこれが一番簡単だったから...。

「ショルショルショルショル...」

路上試験が始まるとショルダーを忘れぬよう念仏のようにショルダーを唱えたものである。そして路上に出て数分後、助手席の教官から早速質問が飛んでくる。

「Could you please afaojfoj○×▲.....」

「ショルダー?」

「Sorry?」

「ショルダー?」

早速ショルダーの出番である。こんなに早く来るとは思わなかった。全く油断もすきもあったものではない。つーわけでショルダー砲は敵に命中、見事撃墜である。よっしゃあとはビュンビュン飛ばすでぇ~。

しかしである、俺のこん身のショルダーアタックにも関わらず敵は死ぬ気配がないばかりかまだ何か言ってくるわけである。

「No, Please turn on ○×▲...」

「Sorry?」

「Radio! Turn on!」

Radioぐらい分かるよ馬鹿野郎と俺の中のキタノが叫ぶ。徳永英明聴いてんだよとキタノが吠える。言われるがままにラジオをオンするが、いやいや俺のショルダーはどうだったんですか。(後に分かったことだが運転中にラジオの音量などの操作が出来るかどうかを見るのも試験の一つなのだそうだ。)

その後何度か質問とも言えない世間話のような問いかけがあるたび、俺はその内容が理解できずとりあえず「ショルダー?」と一応言ってニコニコすることとした。その甲斐もあってか、俺は路上試験一発合格、こうして質問に対して「ショルダー」と答える説は正しいのだと証明された。

駐在妻のブロガーの皆さん、どうもありがとうございました。