ピザって10回言ってみ

我々大人同士ではだいぶ前にすっかり陳腐化したネタであっても子供相手には通用するものが多い。定番のなぞなぞ、手品、大昔に流行ったギャグの類がそれにあたる。

こいつらは人生の初心者だからと、周りの大人からは一切相手にされなくなったそれらのネタを自分の子供相手に披露し日夜喝采を浴びる悲しい大人が俺である。

「ピザって10回いってみ」

「ピザピザピザピザ...」一生懸命ピザを10回きちんと連呼した長男は、案の定ヒジをさして「ここは」と問う俺に無残にも「膝」と答えて悔しがり、ようこそ人生へとたった今大人になる儀式を終えた息子を中心に一家は暖かい笑いに包まれつつも、それをみながらもうお前にこのネタを使えるのも最後かと寂しさも覚えた次第である。

その数日後の朝のことであるが、前日に発熱した次男が夜中に何度もうなされていたのはその声で何度も起こされた自分も認識していたが、妻はその内容までハッキリと覚えていたらしく俺にその話をしてくれた。

曰く、3歳の次男はうなされ、物凄く苦しそうな表情で「ここはどこ...」「ここはどこォォォ...」としきりに叫ぶのでよほど苦しんで、怖い夢でもみたのかと思い安心させようと「おうちよ、おうちだよ」と声をかけたところ、「ピザピザピザ...」と言って寝たという。

あまりツッコミはしないタイプであるが二人して朝から「そっちかよ」と声をそろえ、また兄が引っかかった古典的な引っ掛けクイズを自分もやりたかったと遠くから見ていた弟の秘めた思いを知り、その夜さっそくこの3歳児にもピザを6、7回言わせ「ここは?」と聞くと「ピザ」と答えたがとりあえずなんかニコニコしていたのでそれでよしとした。