兄に習ったTSUTAYAのレンタル方法

中学一年のころまで重要なことは何でも2つ上の兄から教えてもらっていた。
子供の頃は特に人見知りが激しく、不器用でしかも無愛想だった俺のことを母親も心配したのかも知れず何かと兄についていくよう言われていた気がする。
次男次女とはどこもこうなのか、頼るものがあると甘えるタイプの俺は兄が少年野球を始めれば同じく野球を始め、バスケットを始めたのも兄の影響。音楽や映画、テレビやお笑いなど、思えばあの頃は文化全般で強い影響を受けた様に思う。
かといって押し付けられて居た感じてもなく一人で何も出来ない俺には兄からの情報が必要であり、導いてもらえる存在として完全に頼り切っていたのが事実。あの当時受けた影響は計り知れない。

中学の頃だったか、そんな兄にTSUTAYAへ初めて連れて行ってもらったときのこと。
地元に出来たばかりのHOTなスポット、それがTSUTAYA。早々とTSUTAYAデビューを飾っていた兄が得意げに俺を案内する。

「観るなら洋画がカッコいい」「だが、ハリウッドは観るな」

こうしてまた弟は兄の知識で大人の階段を二段飛ばしで登るのである。
TSUTAYAで一通りレクチャーをした兄が最後に「借り方を教えてやる」と、俺を映画のコーナーへ案内する。
「じゃあコレをためしに…」と俺の知らない外国の映画のVHSを手に取り俺にこう教えた。

「まず、ほしい映画を見つけたらこの外側のケースごとレジへ持っていけ」
「するとレジで『このケースはお持ち帰りできませんのでこちらでお戻しておきますね』と店員さんにいわれるから」
「『はい、良いです』と言うんだ」
「そしたら会員カード出して金を払え…」

 

《レジへもっていく…ケースについて聞かれる…戻して良いという…カード出して金…なるほどお》

 

ケースを渡したり戻したり、なにやら複雑なシステムだ。ともかく忠実な弟は忘れまいと兄の教えを頭の中に強く叩き込む。
だけども、頭の中にあまりに強く叩き込みすぎたせいで大学3年のとき大学の友達から「お前なんでその外側のケースまでレジに持って行くんだよ(笑)」と大爆笑されるまでずっとTSUTAYAのレジでそのルーティンを繰り返していたのである。

皆さんご存知の通り、CDにしろDVDにしろ、あの当時のVHSにしても、外側のケースはそのまま置いて中だけを持っていくのが当たり前。
ちょっとまわりを見渡せば「ケースは持っていかない」ことぐらいすぐに分かるはずだが、これぞ宗教・兄のマインドコントロール。ていうか店員も教えて欲しかったのだが俺に「ケースさん」とかいうあだ名をつけて楽しんでいたのかもしれない。

そしてそれが発覚した衝撃のあの日、離れて暮らす兄が同じようにケースをレジに持って行っては「ケース戻しますね」「おう」みたいなやりとりを何度となく繰り返していたのだと思ったときは笑いが止まらなかったものである。

ていうかだな、うちの兄はまだ気づかずにやっている可能性もあるし、お次は自分の息子に「ケースごとレジに持っていけば…」などと教え出したらアレなので今日は悲しみの連鎖を断ち切るために言わせてもらう。コラコラお兄ちゃん、外側のケースは借りられませんよ…(笑)