職場を歩いていると遠くから50がらみの上司に手招きされ、近づくと小銭入れを渡された。
「いつもの俺のコーヒーと、あとお前の分も買えよ」
そういうと上司は早く行けとばかりにタバコに火をつける。
渡された小銭入れを握り締めてダッシュで自動販売機へ向かった。あれは俺がまだ24歳、最初に就職をした職場でのことだった。
いつもの自動販売機に着くといつものコーヒー、BOSSのブラック無糖を買うはずだったが、小銭入れをあけると中には70円しかなかった。あとなぜかクリップが入っていた。
≪いつもの俺のコーヒーと、あとお前の分も買えよ≫
自分の財布から小銭を出し、自分の金で上司のコーヒーを買い、別に飲みたくもないのに自分の分のジュースを買ってダッシュで上司のところに戻る。
「いただきます!」
若者らしい無駄に元気のよい声をだして、上司の目の前で自分の金で買った当たり前のジュースをゴクゴク飲んだ。
上司は≪フッ、若いな≫という顔をしながら俺がおごってやったコーヒーをゴクゴク飲んだ。それは俺のおごりだ。
俺はまだ24歳、社会のことを学び始めた頃の話である。