大人の階段

大人とは子供が作った幻想なのかもしれないが、それでもやっぱり大人の階段はこの世に確かに存在する。確実に我々は何かをのぼり、高みに向かっているはずなのである。

 

■会議

会議でこわい人が「なめてんのか!」という不規則発言をしたのだが、議事録を取っていた俺は「ひえ~こええ~」と思いながらも無表情で「改善するよう指導あり」に書き直した。同じ人の「いつまでにやんねん!ヴォケエ!」という恫喝ヴォイスがこだましたが、「期限を回答するよう指示あり」と書き直した。
平らに均された会議の熱量が、こういう味気ない手直しにより臨場感が損なわれるのは勿体無いと思った。「なめてんのか!」という文言が書かれた議事録を俺は読んでみたいよ。

 

■労働

会社で全くやることがない嘱託のおっさんにいきなり会議室に呼ばれ何かと思ったら「お前はちょっと働きすぎだ、まあ休め」などと言われておっさんが営業の第一線で活躍していた頃の武勇伝の聴き手としての完全なる暇潰しの相手をさせられ、定時で話を切り上げ帰宅する嘱託ジジイの後姿を眺めながら、その分のロスをサービス残業でまかなうハメになった。
我々の労働時間が長いのは「なぜ我々は労働時間が長いのか?!」という会議が行われているとはよく言われる話である。

 

■仕事の夢

仕事の夢を見はじめるといよいよ休んだほうがいいんじゃないという事かもしれないのだが、俺は以前会社のデスクトップから不要なアイコンが幾つか消えてスッキリするというどうでも良い夢をみたことがある。出社すると不要なアイコンはそのままだったので「やっぱり夢か...」とこれまたどうでもいい現実を見た。

 

■昼飯

以前勤めていて職場の周りには飲食店が少なく、マズいのに競争が少ないためにやたら混んでいる中華料理屋だけがあった。満員になると、店のおばちゃんがさも人気店であるかのような、得意げな顔で「ごめんねェ~、今日も満席なのォ」などと言うのだが店の中でそれを聞く客、断られた客の双方が「テンメェ、来たくて来てるわけじゃねえからな!」という顔をする。
このマズい中華料理屋に仕方なく行ったときのことだが、出てきた麻婆豆腐がテーブルに運ばれる直前に一度ゴッソリ、お玉かなんかで量を減らされた形跡が残って、そういうのは分からないようにして欲しい。マズいんだから。

 

■Eメール

英文メールを送るとき、自分の名前をローマ字入力するとメールソフトの「つづり間違ってませんか」サービスが作動し、毎回俺の名前の下に赤い波線つけてくるのだが、何か国際的に認められていない名前のような気がしてとても悔しい気持ちがする。

 

■子供

その辺の子供を「ねぇ、ボク」と呼んでみたくなり、一度勇気を出してその辺の子供に道を聞くときに「ねえ、ボク」って言ったけど俺はめちゃくちゃドキドキしていた。子供は堂々とした態度で上手に道を教えてくれた。ボクは俺のほうである。

 

■役職

小汚い喫茶店の店主が、唯一の店員である奥さんに自分のことを「チーフ」と呼ばせていた。
取引先の、社員が二人しかいない小さい商社では、社長ともう一人の人が部長という肩書きだった。この2つの組織の組織表を作ったらめちゃくちゃウケるだろうなと考えていた。


大人の階段、のぼりながら大人になるのか、それとも子供ままのぼり続けているのか。最近それがわからなくなって来た。