スラムダンクの連載が始まったとき、男子はみんな流川楓になった

スラムダンクという漫画、説明するまでもなかろうが、あの連載が始まったのが多分俺が小学5年か6年生の頃で当時NBAは既に人気で観るスポーツとしては日本でも人気があったものの競技としてはまだまだ日本ではマイナースポーツだった時代にあの漫画は少なからずその今日人口を底上げするきっかけになったといっても過言ではなかった。

実際にどの程度バスケット人口を増やしたのかその定量的なデータを見たことはないが、あの当時俺の周辺ではバスケット部の部員数は急激に増え、付近の小中学校でも同じことが起こっていたのだから全国的に見てもスラムダンクをきっかけにバスケットボールというスポーツの認知度は高まり、結果としてあの漫画はかなり競技人口を増やしたのではないかと思うのである。とにかくあの当時、男子ならずとも10代の若者に与えたインパクトはそれなりのものだったと記憶している。

 

スラムダンクの連載の始まりがあの当時の小中学生に与えた影響の大きさというものを説明する上でもうひとつの説明すべきエピソードとしては、あの当時、特に男子中学生の間に「流川楓」が激増したことである。言い換えると流川的なカッコいい男子キャラクターの概念が当時の男子生徒の中に初めてインストールされたのである。

少女マンガではあの手の気だるい雰囲気をかもし出すクールなキャラクターはそれまでにも存在し割と一般的だったのかもしれないが男子はそうもいかない。女子に比べて粗暴で単純なストーリーを好むのが男子の性質なので「クールなキャラ」と言われて連想出来るのはベジータぐらい。頑張ってひねりだしてもせいぜい食パンマンである。

「シュミ...寝ることかな...」

初期スラムダンクの名言として男子生徒のハートを掴んだのが流川のこの台詞である。趣味を聞かれて寝ることと物憂げに答える流川。クールなイケメンと言えば女子の視線を少なからず慮り常にキメキメであるものと思っていた男子はこれに衝撃を受けその瞬間皆一斉に趣味が寝ることになった。

「えー、趣味は寝ることです。」

クラスの後頭部の寝癖がいつもハンパないデブの童貞が新学期最初の自己紹介で別に聞かれてもいないのに物憂げな表情でそういった。「まあそうだろうよ」という感想しかなかった。このように自己紹介、例えば卒業文集や様々なメンバー紹介の紙面上にも一斉に「趣味:寝ること」という文言が広まった。見渡せば男子はみんな趣味が寝ることになりつつあり、彼らは背は165cmぐらいで学生服のズボンは寸足らず、顔はとても不細工で性欲だけはNBA級だったが趣味を語るときは一様に流川のように物憂げに、気だるそうに「寝ること」と言った。

でも笑わないであげてほしい。あの当時のスラムダンクが与えた影響はそれくらい大きかったのだから。俺も大好きだったスラムダンク。流川の寝ること以外にも色んな名言があったが、社会人になったいま一番役に立っているのは桜木の「ごまかす!」と流川の「もみ消す」ぐらいである。