ヤクザに絡まれる機会があるか

「ヤクザに絡まれた」なんていう言葉を最近あまり聞く機会も無い。最近ヤクザはなかなか絡まないし、そもそも街で「アッ!ヤクザだ!」と分かるような出で立ちもしていないので絡まれた相手がヤクザなのかどうかも分からないかもしれない。暴力団排除条例があるわけだから、ヤクザだって最近では不用意に、無計画に絡むと打撃を被る時代である。

だが以前仕事で訪問した会社では「ヤクザに絡まれた」という3名の方の貴重なお話を同時に聞くことが出来た。なかなか最近では聞かない「絡むヤクザ」の存在に、まだまだ日本も捨てたものではないと心を躍らせてその話を伺うことにした。

 

聞けばこの会社、社用車を停めるビルの地下自動式駐車場にて、近隣に事務所を構える「ヤクザ」と同じところを使用しているのだそうだ。分かってんならやめとけよと思うのだがやめないらしい。本当にヤクザなのかどうかは定かではないが彼らはヤクザと呼んでいる、それだけが事実である。

自動式駐車場は地下スペースを有効に使えるため都市部のビルでは多く採用されているのだが、地下スペースに停めた車をボタンキーで呼び出し、昇降・水平移動にてオートマチックに運ばれてくるまでの時間は他の利用者はしばし待っていなければならないという難点もある。そしてまさに、そのほんの2、3分の待ち時間にこそ「ヤクザ」との接触が多発し、彼ら曰くそこで不幸にも絡まれてしまうのだという。

 

一人目、営業の仮にAさんとしておこう。Aさんのケースはこうである。

「いやあ、オレがクルマ出そうと地下のシャコに行ったら呼び出し口のところにヤーさんが電話しとったんヤ。コッチかていそいどってソイツの電話終わるまで待っとられんからナ、『あのう、車出させてもらってよいですかー』って懇切丁寧に言うたらヤなあ、点滅するランプを指差しながら『見たら分からんか?今車出しとんやろがボケが!オ?!』って凄まれてヤなあ。いッやあ、ほんまヤクザはタチ悪いわあ・・・」

続けてもう一人。Aさんの上司、Jさんとしておこう。Jさんのケースはこう。

「いやいや、あるわあるわ、似た話あるわ。オレのクルマようやく地下から上がってきたからナ、車出そうと乗り込んだときにナ、ほなら、電話掛かってきたんヤ、それ専務ヤったもんヤから取って話をしトッタんヤけど、それがようさん長話になってヤなあ・・・、そんでしばらくしたらドンッって車が揺れる音がしてヤな。ったら、コレよ(頬にキズのジェスチャーをしながら)。窓開けろっていうからやなあ、ハイハイいうて開けたら、、『お前ナニやってんだ?オ?蹴られても文句いえねーよな?!オ?!早よ出せや』ってボディ蹴りながら顔を近づけてくるワケよォ。いやあ、ほんまヤクザはタチ悪いわあ・・・・」

最後、部長。Bさんとしておこう。彼は駐車場ではないが、運転中の経験談を語ってくれた。

「あいつらタチ悪いけんの~!ヤクザのクルマとは揉めんほうがいいで~!昔三重に出張行った先で、当時のセンムのせとったら、センムが急に道間違えた言うもんでUターン禁止のとこやったけど『ええからせい』てセンムいうから急ハンドルでUターンしたらよりによってヤーコーの車にぶつかりそうになってやなあ・・・、おりてきたコレに(頬にキズのジェスチャーをしながら)アレよ(胸ぐらを掴まれるジェスチャーをしながら)」

「・・・・」

賢明な読者の皆さまならすでにお気づきだろうが、いずれのエピソードも悪いのはコイツらである。

「いやあ、オレが鮫の居る海域でヤなあ、海水浴をしトッタんヤ。したら鮫が前方をゆた~とおよいどったんヤ。ジャマやなあとおもったんで、モリで懇切丁寧にツいたらヤなあ、ガッブゥって噛まれてヤなあ。いやあ、ほんま鮫はタチわるいでえ・・・」

こういうことではないのか。

こんにゃく畑はタチ悪いけんの~!こんにゃく畑だけは食べんほうがいいで~!昔三重に出張行った先で、当時のセンムと飯くっとったら、センムが急に冷えたこんにゃく畑が食べたいいうもんで、『凍らせると硬さが増します』って書いてあったけど『ええから冷やせ』てセンムいうから凍らせたらやなあ・・・」

こういう輩ではないのか。

やりきれない思いをぶつける先は商談ノートの中だけであるからノートの端に「ヤクザ、悪くない」と殴り書きして「今後ともよろしくお願いします」とその客先を後にする俺であった。