ご示唆いただきありがとうございます

人はビジネスメールでたまに、本当にごくたまに「ご示唆いただきありがとうございます」という返事が来ることがあるという。俺の社会人生活でわずかに1回、このお返事を頂いたことがある。示唆、つまり直接的ではなくともそれとなく伝え本人に分からせる行為である。

最初は聞きなれない返事に物珍しさだけを感じて「そんなお礼の文言もあるのだな」程度でスルーしかけたが、よくよく考えたときに「ご示唆」という言葉の持つ妙なムズ痒さ、示唆という行為自体のこっ恥ずかしさに軽く身悶えたりしたものである。

「示唆」と聞くとどういうものを想像するだろうか。すべてを知っているけれども答えははっきり言わない、回りくどい言い方で物事を伝える面倒くさい輩である。

ハットを被り、マントに身を包んだ謎の紳士。柱の影からそれとなくヒントを与えて去っていく物語の黒幕。または主人公に訪れる試練をそっと見守りころあいを見て「西へ行け...」など示唆して去っていくおっさんのことである。

「~されたほうがいいかもしれません」

そいう曖昧なアドバイスをした俺が悪かったのかもしれないが、それがしたつもりもない示唆をしたと断定されあの時はとても恥ずかしい思いをした。甘すぎる示唆判定。

逆に自分が上司や取引先にいきなり示唆されたらどういう気持ちになるだろうか。

「西へ行き、ノのつく書類にナのつくアレをされたほうがいいかもしれません」

よく分からないが西濃運輸のセンター止め荷物をとりに納品書に捺印したらいいのだろうかと一応考えてはみるが「ご示唆サンクス」と感謝はする気には到底ならない。お前のなぞなぞに付き合っている暇はなく普通にいえやという気持ちしか沸いてこない。

しかしご示唆いただきありがとうございます、という表現は決してレアではなく割とビジネスシーンでは登場するお礼のようである。実際問題、質問に質問で返すジジイや、なぞなぞ形式で答えにたどり着かせようとする輩は多い。あれも示唆だったのだろうか。

「ご示唆いただきありがとうございます。」

その一言で質問になぞなぞで返してくるジジイとの会話を「はいはいシャスシャス」と終わらせられる便利ツールなのかもしれないと思ったときに、俺もそういう意味で使われたのかなと過去の自分を省みるのであった。