多目的トイレのヒヨコ

多目的トイレは広い。仕方がない、目的が多岐に渡るためだ。しかし純粋にトイレとして見たとき、例えば入り口から便座まで3、4歩あり、広い個室スペースの中で便座が妙に孤立しているのはどうだろう。少し落ち着かないのは何か申し訳ない気持ちからかもしれない。

そして便意をもよおし、急いで入ったトイレがたまたまそんな広い多目的型のトイレだったとき、ズボンを下ろし無事Do itと相成ってふと、いつもこう思うのである。

「鍵を閉め忘れた気がする」

最近のトイレの鍵は多種多様で、目でみて閉めたかどうか分からない鍵も多くなった。青や赤、開や閉の文字がないと、「締め忘れ?!」と、ハッとそう思うケースが多いのである。加えて、最近鍵をかけても内側からは簡単に開くものもあり、外側から本当に開かないのだろうかといまいち施錠に確信が持てないものも不安の原因かもしれない。

一般の広さのトイレならば手を伸ばし締め忘れがあろうととっさに対処できるかもしれない。次の利用者の急襲があったとしてもとっさの瞬発力でドアノブを押さえることは可能かもしれない。それが多目的トイレ、入り口から遥かかなたに便座を構える広いトイレであったならばどうか。広いトイレではそれは出来ない。出来ないのである。歩けば数歩の距離も今は遠くかすんで見える。となればその最中のハラハラ感たるやおびただしいものがある。

多目的トイレの広がりからか、このような広いトイレには縁があり、今までに何度かそのようなシチュエーションに遭遇している。

ある日のこと、例によって便座に座り、いわゆる大きなお便りを水洗式ポストに投函しようとしたところ、「切手は貼ったかしら」とばかりににわかに鍵のことで不安になり、呼吸を止めて1秒、真剣な目をしたのち器用に尻のみを突き上げ、姿勢そのままに遥か3歩先に構える便所のドアめがけてスタタタと小刻みに、足首に絡まるパンツ、ズボンを気にしながら丁寧に歩き始めることにした。

話は変わるけど、多目的トイレってなぜか知らないけど姿見レベルのどデカい鏡が便器の真横にすえつけられていることが多くはないだろうか。自分のモノとはいえ、大小に関わらずああやってまさに致さんとする場面をマジマジとこちら側に見せ付けられるのは気持ちの良いものではないすなあ。。

で、話を戻すがつまりそのトイレにも姿見があったと、そういうことである。鍵のほうは調べてみると安心、きちんと閉まっていた、杞憂に終わりましたと、折り返し便座に戻ろうとしたそのとき、振り返ると例の巨大な姿見に映った俺が一人無残に尻を突き出し、まるでヒヨコのような姿勢でこっちをみていたのであった。それはいささか好意的に見ればティラノサウルスのようでもあったことから「恐竜の子孫はね、鳥だよ」ということをあの時多目的トイレ側が示唆していたのかもしれない。

それにしても、突き出した尻のまま移動するヒヨコのそのあまりの情けなさに、そのまま黙ってヒヨコとして便所を出ていっそのこと選別でもしてもらおうかと思った次第である。