思えば学生時代の就職活動はひどいもので

結局その年は留年してしまったので結果的には意味がなかったし、むしろ下手に就職していたら面倒なことになってしたかもしれないのだが、大学4年時の就職活動は今思い返すと大変ひどいものであった。

そもそも就職活動のことを微塵も理解していないばかりか、親が公務員だったから!というと人のせいにしすぎだが、会社で働くとか利潤を追求するという競争社会の原理、資本主義、ネクタイの結び方などの一切について全く興味もなく理解も出来なかったようで、会社というものをアニメや漫画に出てくる一般的なイメージ、サザエさん美味しんぼなどによりぼんやりとした概念で理解していたが、そこに自分の身を置いてみるということは到底できず、結果として就職活動は何の準備もされず自己流の、成り行き任せのアルバイト面接に限りなく近いノリで取り組んでいたように思う。だからすごく、ひどかった。

学生時代に何をしたか。アルバイトを通じて学んだことは俺は友達でもない人と接するのが嫌いだなあということぐらいで、仕事中に酒を飲んだり店長の目薬に酒を入れたりなどおよそ学生時代の経験として人に話せるものは何もなかった。授業を受け、バイトをし、酒を飲んでインターネットをしていた。CDを沢山持っていたという自然な理由で自己PRに「CDを沢山持っています」と書いたこともあったし、Aamazonでレビューを書きまくっていたので「アマゾンのトップレビュアー1000です」など、企業の皆様には何ら関係のない上別にすごくないことを臆面もなく書き連ねていたものである。

その様なずさんな書類でも審査を通過し面接に呼ばれれば大学入学式の時に買ったスーツをまとい、やべえカバンがないぞと面接当日コンビニで黒い布製のトートバッグを買って面接に行ったのも今思うとあの当時そのような話題を共有する友達が大学に居なかったことにほかならず、いかに手探りで孤独のうちに自己流の就職活動をしていたかということがうかがい知れる。

面接に呼ばれることも多々あったが、あの書類が通過するということは一次面接は書類もほとんど見なかったのかもしれない。あるとき控室から面接部屋に呼ばれ廊下を歩いていく途中、歩くたびにシャンシャン、シャンシャンと祭事に出てくる神聖な馬であるかのように俺の体からシャンシャンと鈴の音がすることに気づきポケットに手を入れると鈴付きの家の鍵を発見、とっさの機転で面接部屋の入口ドア横にあった観葉植物の鉢植えに入出直前にそっと鍵を隠して面接室へ。我ながら好判断!と思うと声も弾み「失礼します!」と中へ入るも、面接中は鍵のことが気になったというか、機転を利かせて鍵を隠した自分に半ば満足してしまった俺は何だこの会社は、早く終わらんかなと何をしに来たのか分からない状態で面接を終わらせると鍵を無事回収、再びシャンシャンと神聖な馬のような厳粛な足取りで帰宅したものであった。

俺の就職活動は終始そんな具合、その後も就職活動のことが全く分からず、落ちるべくして落ちた様々な企業。どこを受けたか名前も覚えておらずその後留年し唯一決まったのが築地市場の青果部門だったのも頷ける。度々書いている通り築地市場の仕事はそれなりに過酷なものだったが「ちゃんとやらないとつらい目にあう」という世の中の当たり前を失敗を通じて学ぶしかない俺には痛い目に遭いながら正しさを追求して転職活動を繰り返すのが合っていたということで、人が自分の将来のことを考える、いわゆるちゃんとするまでの時間や必要な経験には当然個人差があり、俺は就活の失敗と転職二回が必要だったと思うことにしている。

何の縁か今駐在員としてアメリカの会社に出向し働いているが、これは俺の大学卒業後数年を想うと全く想像も出来なかった状況、それだけを考えれば大学4年時の就職活動が俺の人生に及ぼした影響は一切なくて、就職活動や新卒として入った会社で人生はそんなに決まらないと思う。ここに書かれているのはひと時代前のダメな学生の姿ですから、ちゃんとした大学生活を過ごしきちんとした人生設計をした方が方が本人や社会にとっても有益なのは疑いようのない事実だけど、そうできない人もいるし、その人の参考になると嬉しく思う。