会社のおじさんから来たメール

赴任した時は4人いた駐在員が徐々に減らされ今年の春から1人になってしまい4人分の仕事をさせられている。正気ですかと会社にメールで尋ねたが音沙汰がなく、そういえば日ごろメールに返事をしてくるやつが全員頭がおかしいことから正気なのかもしれない。4割る1は4ですし、縁起が悪いですよといっても取り入ってくれず当然のようにめちゃくちゃ忙しくいつも体調が悪い。色んなところが悪くなったが今のトレンドは背中、背中が痛い。あとで何かあった時の為に書いておくが俺が病気で死んだら会社のせいです。

最後の同僚は俺より後に来て、俺の後任となるだったはずなのだが珍プレーが多いというかユニークというか、平たく言うと非常にバカだったのでコロナにかこつけて2年もたたずに帰任させられていった。彼がきたとき迎えに行った空港までの道をまた俺が送りに行った。親より先に死ぬ奴があるか。

彼は今では日本の田舎の営業所で楽しそうにアメリカの思い出話をしているらしく、かつて彼が残した多数の赤字案件について問い詰めようと久しぶりに電話したら景色を楽しむために鈍行列車に乗って2時間かけて出張に向かっている最中だと語った。そうかそうか、食事では器を楽しむ余裕が欲しいし出張では風景を楽しみたい。幸せそうでなによりである。俺は話の途中で電話を切って虚空を見つめた。

彼が帰ったその瞬間から俺の米国長期駐在は約束され、そしてそれを1名で耐えなければならないという事実と向き合うこととなり先日のコロナ禍の中での一時帰国、ビザ更新と相成ったわけである。ビザ更新はゴールではなくスタート、上司も同僚もないまま孤独なレースは続いていくと確か桜井和寿もかつてそのような歌を唄っていた。

そんな多忙な生活をしている俺だが、会社の会ったこともなければメールすらあまりやり取りをしたことのないおじさんからご自身のLINEのID付きで「仲間 欲しい よね」というメールが来たのは先日の事だった。それは幹部、管理職に配信される俺の月報配信メールへの返信。それにしてもやたら長いメールだった。要点を突き止めるのに30分かかった。おじさんのメールは単語なのか文節なのか規則性はないがどういうわけか定期的に半角スペースが入ってくることで有名であり巷では脅迫状と呼ばれていた。それがこの長文を読み解くことを大きく阻んだのである。

何度も読み返したがどう考えても要点は「仲間 欲しい よね」という事だった。1人で苦労している後輩の力になってあげたい、これはそうした温かい気遣いである。そういえばそうだ。上司もおらず誰からもケアもマネジメントされていない。遥かアメリカでこんな理不尽な話はないじゃないか。俺は孤独だ、仲間が欲しい。これはとてもありがたい話だ。しかし相手は選びたい。例えば「女の子だってエッチなんだよ」と言うがそれはバッチリ相手を選ぶことが前提なのである。俺もエッチだが相手を選びたい。すいません関係ない話をしました。

つまりそのメールの要旨としては「私が 仲間に なる から」という悪質な強迫行為で間違いなく警察に言おうとかと思いましたがどうやら選択肢はなくLINEを登録せざるを得ないという事だった。仕事のメールは基本的に即日返すようにしているがこのメールは2日間寝かせてしまった。熟成し発酵して文字化けし別のメールになってほしかったがそうはならず、諸々を勘案した結果逃げることをあきらめLINE登録に踏み切ったその瞬間におじさんからは即返事が来た。

「おはよう!日本は朝です。今日はいい天気です」

LINEでのジジイには半角が存在せず流ちょうな日本語だった。さながらオフの脅迫犯のといったところか。かわりにそこには中年男性特有の絵文字がふんだんに使われており、ひょっとしたら普段脅迫文と呼ばれている仕事でのあの半角スペースの入りまくったメールにも若者には見えない絵文字が存在しているのかもしれない。もしそうだったらそれはそれで昔のCHAGEのブログのようにもっと読みづらかっただろうな、などなどそのLINEの一文に対し色々思うところはあったが俺からは当たり障りのない、おじさんの嫌いそうな覇気のない若者じみた返事をしたところそれ以来返事がない。

今日は土曜日、今朝は特に体調が悪い。