コンビニと地域社会

以前郊外の国道沿いにある駐車場の広いコンビニで時間つぶしに漫画コーナーで立ち読みしているとレジ方向から何やらデカイ声で雑談している声が。
チラリと目をやると会話の主は作業着を着た50代半ばと思しき日に焼けた浅黒いおじさん、そしてその人に応じるレジの30代後半ぐらいであろう、パートの女性店員だった。

会計済みのコーヒーを飲みながらレジ横で話しかけるおじさんから投げかけられるのは問題発言をした政治家に関する時事問題に始まり自分の息子の話、そして近所の大型ショッピングモールの話題などなど、本当に取るに足らない話題ばかりだが、それに応じる女性店員も決してあしらう様子でもなく、二人してなかなか楽しそうな感じ。おじさんは常連でこの女性店員とは顔馴染みのようである。コンビニの午前10時頃、客も居ないのんびりとしたコンビニ店内できっといつも行われている光景なのだろう。

そういえばコンビニエンスストアが全国に一気に広まり始めた当時、コンビニについて論じている本に出会った。高校時代に読んだその本のタイトルや詳細は曖昧だが、一つハッキリ覚えているのは、そこには「コンビニエンスストア一店舗単位にはその店特有の存在感が無く、またそれが必要とされていない」というような内容。ちょうど近所にようやくコンビニが出来たばかりだったから強く印象に残っている。

あくまでコンビニは全国に何千店舗、ないしはそのエリアに数店舗あるものが、それを日常生活で何となく見かける人、利用する人の意識に薄く刷り込まれることによってのみ存在し、自社チェーンの特色だけが明確化すれば、別にその「特定の××店特有の何か」は必要ではない。むしろ各店舗特有の印象、個性というのは逆にそのコンビニチェーン全体のイメージを損なう可能性があるため嫌われている、ということだった。もの凄く乱暴に要約すれば「コンビニは地域に密着する気がなく、街中に溶け込まないどこか味気なく冷たいものである」ということを言いたげだったように思う。確かにあの当時、近所に出来たコンビニが自分の住む地域の中にあるのに何かよそよそしく感じたものだから妙に納得した。

「コンビニが若者の非行の温床に」

「コンビニは人間の我慢する能力を低下させる」

「コンビニが引き起こす地域社会の断絶」

そういえばコンビニ黎明期~発展期には、色んな角度、文言でコンビニに対するネガティブキャンペーンがに盛んに行われていた気がする。

何となくその気持ちもわかるものである。俺の地元にコンビニが初めて出来たときには上手く説明出来ない謎の嫌悪感を抱いたものだった。先ほど書いたよそよそしさの中には新しいものへの警戒心や拒絶反応とはちょっと違う何かがあった。

あれはきっとコンビニってのが朝から夜に飽き足らずそこからさらに深夜まで、つまり365日24時間営業していて、人間が太古より続けていた「朝日とともに起きて日が沈んだら眠る」というオリジナルの活動サイクルに背いて深夜も活動するビニコンのアグレッシブな姿勢に対するものだったのかもしれない。

それから考えれば今のコンビニへの見方って大分変わったように思う。もともと「地域」が感じられにくい都心部、繁華街ではコンビニは未だに過去の雰囲気を若干残しているかもしれないが、郊外におけるコンビニのあり方はどうだろうか。地方、郊外においてはいつからかコンビニの存在感、立ち位置は少しずつ変わってきていて、もはや決して地域に溶け込まない、味気なく冷たい場所などではないのではなかろうか。

最初に書いたおじちゃんと女性店員の雑談風景はまさにその一つ。今ではどこのでも割と当たり前のように見られる、かつての地元の商店が担っていたような地域の貴重な日々の社交の場としての役割を果たしているコンビニの現在の姿ではなかろうか。

 

...とまあ、散々小難しいことで文字数を稼がせて頂いた上で本日皆さんにお伝えしたかったことというのが実はその内容の大半とは全く関係の無い事で本当に心苦しいのだけど、最初にレジの女性店員と楽しそうに政治の話や家族の話、近所の話など至極健全な世間話を繰り広げていた人の良さそうなおじちゃんがだよ、一通り話し終わって満足するとすかさず俺が立ち読みをしていた雑誌コーナーに移動して来て、あろうことか成人誌コーナーに、あまつさえ手に取ったのが「30代人妻の熟れたなんとか」とか言うエロ本だったのである。

さっきまでの気の良い地域のおじちゃん然としたフェイスはどこへやら、営業マンなら誰しも欲しがるこの切り替えの早さ。あんた営業やんな、営業、と思ったものですが、いやあ恍惚とした表情で30代人妻の挑発的なポーズに「受けてタつぜ!」の観音顔やないですか。

「てめえさっきまで同じ店内でその『熟れたなんとか』と健全に雑談してただろうが!」

と心の中で燃え盛る俺のtukkomiの炎に対し、彼の背中はこう語る。

「俺はオン/オフ切り替えるタイプや!」

オン入ってしまったのはテメエの股間やでとはいったものですが、ひとしきりエロ本を目で舐め回すと当然のように買わないままそそくさと退店。国道目がけてマッハで駆け抜けるライトバンが眩しかった。そしてそれに対して何も知らずに「ありがとうございましたー」と一応の店員ボイスで告げるのは先程まで談笑していた熟れた30代・女性店員。

コンビニエンスストアは今日も地域社会をがっちり繋いでいるのである。