Pait It, Black(黒く塗れ)

同じ中学に白石君という若白髪の男子生徒がいた。とはいえ彼の白髪は頭髪全体を覆うものではなく頭の一箇所だけに、それはまるでミステリー・サークルの様に、直径五センチほどの場所に白髪が密集して生えているというもの。

本人も白髪のことは気にしていたようなので、周囲は本人の前ではそのことについては触れることはなかったのだがある日とうとう彼の白髪に異変が起きたのである。

おそらく彼自身が長年気にしていたその白髪を、彼はおそらく母親のものと考えられる白髪染めによって隠すことを決意したのだろうが、ともかく彼が白髪染めを施したと思われるその翌日、学校に現れた彼を見て一同あ然。

何と彼の頭にあった白髪は、一晩でかなりパンチの効いた鮮やかな茶髪になっていたのである。黒髪の中にバツグンに効いてくる茶色のアクセント。察するに、彼の母親が使っていた白髪染めはたまたま「ブローネ おしゃれ白髪用」という、白髪がほんのり茶色に染まるワンランク上の奥様向けのものだったのだ。彼の名誉のために言っておくがとても真面目でワルに憧れるような生徒ではなかったことだけはお伝えしておきたい。

しかし、そんな事情は他人には理解されることはない。これが悲劇の始まりだ。天然の、生まれもっての白髪であればそれは君の個性だ、君のあるべき姿だと何らお咎めもない個性としての扱いであったのだろうが、これが茶髪となれば話は違う。ただの「反逆のシンボル」なのである。

こうして「ブローネ おしゃれ白髪用」の魔法によって意図せず頭上に戴冠した反逆のシンボル。彼の頭は当然のようにその日のうちに教師の目にとまり、思想的な反逆性などは一切確認されないままに

「お前その頭、ナメてんのか?黒で染めてこい」

Pait It, Black―彼は不幸にも黒塗りの宣告にあってしまった。染めたものをさらに染めるというこの染めの二重構造。染ノ助・染太郎もビックリである。おめでとうございます、とは言ったものである。

だが圧巻だったのはそれから3週間後だ。元々茶髪に染め上がってしまった彼の白髪、黒にするには日々の黒髪スプレーしかなく3週間が経過するころには黒髪スプレーの染めムラで微妙に茶髪が顔をのぞかせているところにオリジナルの白髪が成長、そこに現れたのは黒、茶色、白の共演。協調、反逆、純真...まさに思春期の葛藤を描いた現代美術である。

それから数日間、彼のミステリーサークルは日々推移する三色グラデーションにてさらにミステリーさに磨きをかけて我々を楽しませたのであった。

 

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