名酒『晴閑大』を愉しむ

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皆さんは「晴関大」という焼酎をご存知だろうか。

くさみがなく後味もすっきり、上品で爽やかだが、それでいて飲み応えは十分。普段あまり飲まない人でもロックやお湯割りで十分楽しめるという、鹿児島県南部で作られた甘口の芋焼酎だ。

この焼酎を飲んだことがある、もしくは知っている、という人が居れば教えて欲しい。
偉そうに紹介してみたが、実はこの俺もまだこの幻の焼酎に出会ったことが無い。
売ってあるかどうかも分からない。というか多分無いです。

なんせ「晴関大」は去年俺が考えた架空の焼酎だからだ。

「晴関大」・・・、読み方を「セイカンタイ」といい、程よく酔っぱらって来たとき、俺は何の前触れも無くコイツを注文する。しようとする。

「して、この店にはセイカンタイは置いてありますかな。」

あるわけがない。ねえよ。だがそれを真顔で言って、言っている自分だけがただ満足するという、店員にもその場に居る方々にも何らメリットの無い迷惑行為を、俺は時々やっている。「あればロックで頂きたいのだが・・・。」とかなんとか言うのである。

「無いものを注文してどうすんだこのアホ、迷惑だ」という声がフレッツ光のケーブル越しに聞えて来そうだが待って欲しい。

《全国に何百と焼酎の銘柄があるのだから、ひょっとしたらセイカンタイなんていうイヤラシイ名前の焼酎もどこかにあるのでは・・・!?》

「セイカンタイ」、普通に考えればそれは「アノ帯」を連想させるCuteな文字列ではあるが、なんとなく焼酎の名前としてもギリギリOKな感じがしないでもない。岐阜とかその辺にあるかもしれない!

そんな儚い期待が奇酒「晴関大」誕生の源であり、居酒屋に行く度にコイツの名を出していればいつか「はい、入荷しております。お飲み方はいかがなさいましょう?」なんていう奇跡が起こるのではなかろうか!と考えているのだ。

原材料である「暇」を蒸留させた実に悲しいお酒の話である。では、今日はこの辺でさようなら。

 

ー完ー

 

 

すいませんが、もう少しこの話を続けてもよいでしょうか!

 

もっとも、そんなことを店員さんに尋ねても大抵その場で「申し訳ございません、メニューにある分しか置いて無いです」と返されるのが関の山。存在する可能性は限りなくゼロに近く至極当たり前の回答であるし、そもそもその程度の扱いのほうが助かる。
こちらとしても「あ、やっぱ関東だと無いかあ・・・」などとつぶやいてその場は終わることができるのが一番良いのだ。

言えばそれで満足、要はただ公の場でセイカンタイと言いたいだけの変態である可能性もかなり高い。店員さんにはこの場を借りて謝りたい。

ただ稀に、大概入ったばかりと思しき若い店員の方、「はい、少々お待ち下さい」と、奥へ引っ込み先輩店員に尋ねに行く方もやはりいて心が痛む。

《あの、センパイすいません、セイカンタイってありますか・・・?》
《ん、乳首だが・・?》

そういうやり取りがあったのだろうか、戻って来るやもの凄い軽蔑の眼差しで「メニューに載せているものだけしかございません」と冷たく一言。

本当にすいません。この場を借りて深くお詫びいたします。もうしません。してません。

チンポ型のポンチ画、爆誕問題について

仕事柄、部品や筐体、完成図など打ち合わせでは色々なものの「寸法」「形」を決めなければならず、その場で簡単な画(え)を描くことが多い。
これらはポンチ画(え)と呼ばれ形がわかれば手描きでも問題ない。ポンチ画の上手い下手は我々の業界では一つの能力のようなもので、それを元に設計のベースになるなど、たかがお絵かきでもなかなか侮れないものなのである。

だが小学生的な感覚で見た時の、「ポンチ」というそのなんとなく際どい名前はどうだろう。
初めて聴く人には確実に「おや?」と引っかかる言葉だと思うが、「はて!ポンチ、なんのことでしょう」などとピュアネス全開の方はここで読むのをやめてください。
勿論我々は慣れきったフレーズであるから今更ポンチ、ポンチと言っても表情も自分のポンチも全く微動だにしないわけであるが、時々このポンチという言葉が妙に輝き出す瞬間があるのである。

それはどんな時か。
めちゃくちゃ単純で恐縮ですけれども、色々と描き進めるうちにポンチ画が偶然チンポの形になる時である。

 

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※ポンチ画


これは作るものの業界にもよるのだが、それらしい形のものに色々と線を引いているうちたまたま、、たまたまチンポ型のポンチ画になる一種のハプニングなのである。
大の大人が眉間にしわを寄せて議論する中で、その瞬間のみ「チンポwwwww」みたいな空気が確実にその場を支配し、描いた方も「あっ」というような感じで変な感じに目があう訳。まあ、あっ!て声出したらもうその人はアウトなのですが...。

チンポ画の爆誕問題、しかしこれは作図ルールなどに鑑みると起こり得る要素はたくさんあり意外と珍しいことではなく、有史以来我が国で何千万、もしくは何十億と描かれてきたポンチ画の歴史の中で恐らくそのうちのコンマ数パーセントは偶然チンポの形になってしまったはずである。ちなみに今コンマを使ったのは偶然です。では、今日はこの辺で終わります。

 


と言うのは!と言うのは冗談でして!続けます。

俺自身、これまで実に二回も意図せずチンポ型のポンチ画をこの世に召喚した事があり、他人が描いたチンポ型のポンチ画も一回見た。
その度に「チンポwwwww」となるのは、これはもう何人も禁じる事は出来ないヒューマン共通の素直な気持ちであるので許して欲しいのだが、更に辛いのがこれを元に設計が始まり、CADで描かれた真面目な線の、真剣な、よそ行きのチンポの図面が出できた時であり、それを取引先に提出、承認を経て返ってくるまでの間「ああ、承認の回覧がなされるうち各所で『チンポ wwww』と後ろ指指されたのだろうなあ」等と思うと辛い部分が有り、それが実際に製品になって現物になるときに、工場などで爆笑とともに、盛大なスタンディングオーベーションと共に出荷されるのだろうなあ!などと考えると、その発端となった者としてはとても申し訳なくも誇らしい気持ちになるのである。

考えてもみて欲しい。
この世のすべての製造物には全て構想があり、図面があるのである。例えば新型のディルドが開発される時もしかりなのである。
ディルドの図面だって関係者に回覧され、改訂を重ねながら、何人かの承認を経て製作スタッフにわたる。
俺がディルドメーカーの設計部門のマネージャーだったとして、自分のところに週に何枚ものチンポの図面が回ってきて部下から図面の承認をお願いします、などといわれたらもう気が狂ってしまうかもしれない。しるか!と言っちゃうかもしれない。
果たして、カリのところに赤ペンでチェックなどして「Rをもっと大きく。」など指示をする作業を週に何枚もこなして正気が保てるだろうか。

《チンポの正しさをお前が決められるのか?》

そんな神の問いかけにハッキリと答えをだせるのか、俺には自信がない。


すいません、途中からなんの話していたか忘れましたが、とりあえず仕事は楽しくやっております。

ワンワンといっしょ!夢のキャラクター大集合へ参戦してきた

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2月4日に名古屋市日本ガイシホールで行われた「ワンワンといっしょ!夢のキャラクター大集合」に参戦してきたので報告します。(こういうときだけですます調になります)

このイベントは「撮影禁止」のため写真はこの入場口の一枚が唯一。あとは何も写真がない。ここから先、まさかの文字だけで報告することはご容赦ください。

※多少のネタバレ要素があります。あと、Eテレ観てない人には終始全くなんのこっちゃ分からない内容かと思います。

 

 

www.sukusuku.com

 

わずか1時間の公演時間、当初は「みじけーじゃねえか!チケット代結構高いのに!」と思っていたのだけど、結論から言うと大満足でした。というか、子供向けのイベントは何が何でも1時間で終わらないと集中力が続かないですよね。

それもあって、まさに息もつかせぬという詰め込みっぷりで終始興奮しながら過ごし、あっという間に終了した1時間という感じでした。

 

そもそも、このような大きな場所でのコンサート、ライブの類の経験が殆どなく、遡ると2008年の東京ドームで年老いたビリー・ジョエルを見たとき以来。(ビリー・ジョエルがMCで英語の冗談を言っても誰も分からずに静まり返っていたのが良い思い出です。)

それからすると実に約9年間、俺はこの手の大きなイベントホールに来ていないのだという事実に衝撃を受けながらも、久しぶりにこういうところにくると単純に「デカい」「広い」ということだけで気持ちも高ぶるというものです。

 

さて「夢のキャラクター大集合」といいつつも、実際には登場キャラクターは限られており、タイトルどおり「ワンワンといっしょ」がメインになるイベントなのですが、俺はというと朝の出勤前には毎朝Eテレを見ているけれども知っているキャラウターは限られていて、それでもまあ子供が楽しめれば俺はいいやの姿勢で挑んだわけだけど、まあ、興奮してしまったワイ...

冒頭、明らかにりゅうちぇるを意識したようなカツラとメイクの進行のお兄さんが前説的な感じで現れた時点で、興奮により既に判断力が普段の1/10以下に低下していた俺は、これを粋なサプライズと勘違いして「お!りゅうちぇるだ!!!おいぃ、りゅうちぇるだー!」などと普段民放を観てないからりゅうちぇるが何者かロクに知らないくせに感覚でもって彼の名前を叫んで恥をかきました。

それでもショーが始まるや、名前もしらない太ったキャラがミュージックに合わせて器用に踊る様、また初めて見た名も知らないお兄さんのアクロバティックな動きにはこのクソジジイも一人の客として、単純にショーとして魅了されており、「すげえ...」と独り言を述べたりなどしておりましたが、もとがそんな感受性がガバガバな状態だから、知ってるキャラクターが出てきたときはもう大興奮なわけですね。

 

毎朝出勤前に観ている「みいつけた!」がとりわけ気に入っているのだけど、そのキャストであるオフロスキー、コッシー、サボさんが出てきたときにはもう無意識に「サボさーーん!」「サボさーーーーーん!」などと無我夢中で手を振っておりました。

 

www.nhk.or.jp

 

あとはかねてからどうなっているか疑問であったコッシーの動力問題についても、今回生でまじまじと観察することで「あれはラジコンである」という事に確信が持てたことは大変収穫で、小回りが利かないのか、ステージ上でオフロスキーさんから何度も手で軌道修正をされている様はなかなかテレビでは観られるものでもなくとても良いものをみた気がします。どうもなんか段差に弱くて、段差にあたったコッシーは小刻みに震えていました。

帰る途中、あちこちで子供らが口々に「スイちゃんが観たかった」とこの「みいつけた」に出てくる女の子スイちゃん不在を嘆いていましたが、俺はそれよりもオフロスキーが最近「体の点検隊」の個人レッスンで頻繁に直接指導している「タケル」くんを生で観たかった。彼はキレがすごい。(マニアックな話ですいません)

 

とはいっても今回一番よかったのはおねんどお姉さんを生で見られたことです。

 

ameblo.jp

 

俺たちのおねんどお姉さんが今目の前に!という気持ちだったけど、妻子にはこの高ぶりを悟られぬよう「ほら、なんか、お姉さんが出てきたよ。」などと平静を装ったものですが、本当はお姉さんと一緒に「いよッ!こねこねーーー!こねこねーーー!」と叫びたかったし、なんなら興奮したお父さんたちだけで会場にウェーブなども起こしたかったッ...!

 

俺は二階席だったのだけど、場所に左右されない色んな仕掛けや客席近くまでキャラクターがやってくる演出もあり、次から次へ色んなところから色んなキャラクターが登場する様をみて「年末にやってるジャニーズカウントダウンって、こういうことだよな」と思うと、そこまでよく知らないキャラが大半のこのイベントですら大歓喜しているジジがここにいるのに、ジャニーズのファンの方なんてのはジャニーズカウントダウンを、アレを生で観たらもう失神するんじゃないすかねマジで。

それまではアイドルのライブなんか観てて、曲も聴かずにキャーキャーずっと言ってるヤツってバカじゃねえのなんて思っていたが、その日は俺だって「コッシーー!!!」「コッシーー!!!!」「コッッッッシーーーー!!!!」って野太い声で叫んでいたのですから、キャーキャー言ってる人たちのことを俺はもうこれからは何も言いません。

 

 

 

最終出社日にカマしてくれた野崎さん

前職での話である。同じ支店にいた野崎さんがとうとう退職を決めたときのことだ。

当時俺より4つ上の32歳。同じ九州出身だった野崎さんは、凄く真面目なのだが、頭が硬く、それが悪いほうに作用してしまったのかはっきりいうと仕事があまり出来ない人だと思われた。年下とはいえ先輩の俺に対してはプライドもあったのか一度も相談されることなく、むしろ何か張り合っているようにすら見えたほどだ。

一方ではかばかしくない営業成績には、ミーティングのたびに上司から何かとガミガミ言われ、それがモチベーションの低下を引き起こすと、さらに仕事に悪影響を及ぼす・・・・、という悪循環。

モチーベーションの低下が顕著になってから3ヵ月ほど経った頃、遅刻や早退などの明らかな勤務態度の悪化なども見られ、半ば「まあ、しょうがないか」というような社内の雰囲気の中、形ばかりの引きとめすらロクにないまま、野崎さんはすんなり辞職届けを出すにいたった。

二人の子を持つ父親であるが、よほど嫌だったのか次の仕事は決めないままの決断だったという。今二児の父の立場になってみると相当な決断だったであろうし、彼自身もそうだが、周囲はもう少し何とかしてあげられなかったのかと思うところはある。

ともあれ一般的に退職する人の多くは、後任への引継ぎを終えた後、残っている有給休暇を消費すべく在職残り2週間程度を全て休みにするのが常であろう。

野崎さんもそのような形で残りの在職期間を有給休暇の消化に充て、自ら総務に告げたらしく残り一日で本社、支店とそれぞれ挨拶に来るハズだった。ところがである。最終日、最後の挨拶をしに来ると思い、待っていた支店の我々に届けられたのは衝撃の連絡・・・。


朝、最後の出社をしてくる予定の野崎さんを待っていた我々に対し、支店長が酷く困惑した顔でこう伝えた。

「えー・・、野崎君から本社のほうに連絡がー、ありまして、『今日は体調が悪いから休む』そうです。」


ザワザワザワ・・・


今日は・・休む。

 

もう次はない、最後の出社日に「今日は休む」というこの、人生に一度出来るかどうかの体を張ったサラリーマン・ジョークはどうだ。野崎あの野郎、ラスト・ダンスで凄いステップをカマしてくれたぜ・・・!

 

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※野崎

 

≪次いつ来るんだ・・・来世か・・!?≫というオフィス内のざわめきの中、俺は野崎さんが何か物凄い火器を持って「最終出射じゃああーーー!」など言いながら我々に乱射を試みるシーンを想像しドキドキしていたが、幸いそういう事もなく、それ以来彼とは一度も会わずに今に至る次第である。

俺もそれから1年後に現在の会社への転職を果たしたわけだが、彼が幸せな人生を送っている事を願うばかりである。南無。

僕はただ「お疲れさま。」と言いたかっただけなのに

俺は一時期必死に英語を勉強していた事があった。その背景には悲しい物語があり、それを思い出すと今でも悲しい気持ちになる。

 

2年前の今頃、俺は本来ならばアメリカへ行くはずだった。会社から正式にそう言われたので覆ることはなかろうと覚悟し、ならば知人にも急ぎでお別れをと思いプライベートでも会った人にはそう伝え、facebookなどのSNSでも神妙な雰囲気でもってその旨報告したのも無理はなく、こうして俺は完全に渡米機運を高めてその日へ向けた覚悟の日々を送ろうとしていたのであったがその結末は意外なものであった。

それは突然の愛知県行き。ご存知、あの愛知県である。

愛知県だって日本のデトロイトとは言ったもんですが、俺は一度は覚悟を決めたアメリカ行きの、その直前で「あいつにはまだ早い」という誰かの鶴の一声によって白紙に戻されてしまったのである。

 

「いやあ、ちょっとアメリカへ...」

「いやあ、渡米するんすよ」

「いやあ、駐在員です」

 

思い返すと割りと自慢げに語っていたアメリカ行き。そのアメリカから愛知県へ変わったときの落差といったら無かった。愛知県には何の落ち度もなく、アメリカの後だとどんな都道府県、市町村だって勝てやしない。またその「愛知県」という微妙な表現がミソで、名古屋市でも無いのでとても言いづらいことこの上なかった。

 

「愛知県。」

「名古屋じゃないです...」

「愛知県...。」

 

思いがけず川柳ができてしまったが、散々アメリカ、アメリカと喧伝していた分「愛知県」がめちゃくちゃ恥ずかしいものになってしまった。

 

とまあ、だいぶ横道に逸れそうだったのでこの辺にしておくが、俺が英語を勉強していた悲しい背景というのにはこういうことだということを言いたかったわけで、なまじ頑張って英語を勉強してしまうとやはり自分の実力を試したくなるのが人というものである事もご理解頂きたく、ここまでを本題のマクラとしたい。

 

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この写真は俺があの当時必死に読んでいた英会話1000本ノック ビジネス編の初級編のある1ページである。ちょうど紫のマーカーが入った表現、「Long day, huh?」という例文が今日の主役。同封されていたCDをMP3プレイヤーに入れまじめにコツコツ聴いていた中で耳に残ったのがこの表現、「ローングデイ、ハァ?!」である。

とにかく最後のhuh?がたまんなくて、映画などで聴いたことのあるアメリカ人の「ハァン?!」そのもの。この妙にこなれたアメリカンなものの言い方はとてもかっこよく感じられ、その癖に伝えたいことは「お疲れ様。」という割とどうでもいいものだから俺はどうしても機会があればこれを言ってみたいと英会話の勉強中は常に考えていたものであるが、なかなかその機会も無く、そうするうちに先ほど説明したとおり「愛知県」に行くハメになると、終には半ばシラケたムードも手伝って全く持って英語の勉強をする事は無くなったのである。

 

英会話の勉強をやめてから1年半ほど経ったある日のこと、それは俺がアメリカから来日したグループ会社の社員を乗せ、幾つかの目的地まで連れて回る役目を命じられた時のことである。

来日してきた彼はダンカンといい、俺より5つ上の巨漢のアメリカ人男性であったが、通訳代わりの現地駐在員が同行していたため俺はなけなしの英語力を駆使する必要も無く、あくまで車中ではドライバーに徹する形でその任務を粛々と果たそうとしていた。

はずであったが、道程もあと僅かという安心感か、はたまたそんな中でも隙を見ては限られた英語能力を駆使するなどしてダンカンさんと若干のコミュニケーションが取れた事による自信が芽生えたからか、もうすぐ彼を駅へ届けようかという辺りになり、ふとあの例文「Long day, huh?」が頭を過ぎると、無性にそれをこの機会に使ってみたくなったのであった。

 

彼が車から降りるとき今がチャンスだとばかりに、俺は「ローングデイ、ハァン?!」と語りかけた。やった、言ったゾ!いったった!という俺の顔を見ながら、しかしダンカンは「ソーリー?」と聞き返してきた。

聞き返すとは予定外である。1000本ノックによると「Yeah,long day」って返してくれるはずなのである。なぜだ、と助けを求めるように見ると、駐在員の彼は先に降りてダンカンさんの分の荷物も含めてトランクから荷降ろししている。コヤツ、役立たずここに極まれりである。

会話は一度投げかけるとキャンセル出来ない。だからもう一度、同じトーンで続けた。しかしさっきよりもっとハッキリとだ。

「ローングデイ、ハアン!!!」

 

しかし多分彼は「プリーズセイイットアゲイン」みたいな事を言ったと思う。俺は英会話1000本ノックではサードを守っていたから守備力には自信があるのである。ウッ、、辛いと思ったが、お望みどおり「ローングデイ、ハァン?!」をもう一度言ったがやはり通じなかった。記憶から消したいからかここから先はおぼろげだが、俺はそのあと多分2回ぐらい「ハアン!」って言ってたと思う。通じなかった。

 

 

まあ結局通じなかったのだが、彼は途中で会話を切り上げ、車の外で「オケ、サンキュ!」と言って俺と握手をして去って行った。

俺は愛知県に住んでいる。