2018年に読んだ面白かった日記記事

bokunonoumiso.hatenablog.com

昨年紹介したような感じで今年もいろんな記事の中で面白かったなと思うものを紹介します。オモコロ/ハイエナズクラブのおおきちくんと、ノオトの神田さんから教えて貰ったのが大半ですが、去年面白い記事を紹介してから自分のところにオススメしてくれる人も増えてきて今年は結構色んなブログを読んだような気がします。

hyenasclubs.org

また先月はハイエナズクラブでも同じような企画があり、そこでもまだ知らないブログの存在を知ることが出来たんですけどもう誰も日記ブログなんて続けてないだろうなと高をくくっていた中、結構、まだまだやっている人が多くて安心しました。

世の中に面白いブログの面白い記事はゴマンとあると思いますが、ここはやはり自分が好きな個人ブログの、テキストがメインの日記系記事の中から、更に皆さんの思い出話を中心に紹介します。だって俺は人の思い出話が好きだから...。

テキスト系ブログ好きの皆様とまた来年も面白いブログを共有出来たらうれしいです。では、よろしくどうぞ。

 

スネ噛り姉弟物語(天野アマゾネスさん/Shortnote)

www.shortnote.jp

例えば「妹がガン」という情報が「弟が引きこもり」という情報とほぼ同列に扱われるなど、ちりばめられた強烈なインフォメーションへの説明がほぼないがしろにされて話が進行していきつつ、それを上回る話の内容に引き込まれました。はっきりいってイラストは洗練されてないんですがそれが妙に文章にあっていて、結果として誰にも出せない魅力になっていると思います。勝手なこと言いますがどうか絵はこれ以上上手にならないでほしい…。

 

夜行バスで酔っ払いに叩かれて泣かされた話(とりめも)

chidorimemo.hatenablog.com

箇条書きに近い文体で出来事が淡々と書かれているのでおきていることが次々外部から報告されてくる感じで臨場感がありますよね。こういう書き方で色々な出来事を表現すると面白いなと思いました。

 

ツジドーバニシング(JETさん/note)

note.mu

JETさんの記事はこの他にも5つぐらい紹介したいものがあるんですけど 色々と小賢しく解説するのはやめておいて、とりあえず読んでほしいという感じです。後ほど紹介する城戸さんと共に「ほがらかCITY」という同人誌を作られていると知りましたが、とても興味深いので機会があれば買ってみようと思います。

 

本当の上京(城戸さん/note)

note.mu

城戸さんはTwitterで知ったのがきっかけですがこの記事他とても面白い日記を書かれていて紹介したいなと思いました。上京して一人暮らしを始めた時の最初の無敵感みたいなもんが息継ぎなしで一気に読ませる文章から感じられてすごく良かった。

 

6/27(醜さ)

givemealcohol.hatenablog.com

元の素材にエフェクトのめちゃくちゃ掛かった日記だと思って日記として紹介します。この記事以外にも文章がとても好き。

 

 

ほぐせぬまま(西片例の、)

leinishikata.hatenablog.com

この記事に限らずあるエピソードから話を膨らませてまた最初に戻ってくるという書き方がよいです。この記事は特にめちゃくちゃ着地が綺麗に決まって、最後の締めの一文は上手いこと言いやがって!と思いました。

 

ひびきちゃん(あれ?) 

bgddcf114.hatenablog.com

児童文学的な淡々とした書き方で語られるひびきちゃんの断片的な情報、時々効果的に入ってくるふ〜ん。がひびきちゃんとの本当の関係を色々想像してしまう。

 

 アダルトVRを見たら仏になり損ねる(気がつけば大伽藍)

blog.livedoor.jp

「面白い話聞かせたるぞ!」というノリで始まってそのままワーッと面白い話を聞かせられるという記事です。今時文章の量がこんなに多いブログなかなか無いんですけど、いわゆるパンチラインがあちこちにあってそれを感じさせないのがすごいですよね。

 

ちーちゃん(かきかた)

kakikata3648.exblog.jp

ハイエナズクラブの自由研究でも紹介コメントをしましたが人の描き方に愛があって良いです。特別なエピソードや眼を見張るような起承転結は特にないけどまあそれが個人の日記ブログのよさだし、自分もそういうの書けばいいなと思いました。

 

親父とじゃがいもの味で通じたい(.jpeg

motoimotoi.hatenablog.com

途中から関係ない話が急に混ざって来るんだけどそのまま何事もなく話はちゃんと続いていくのがめちゃくちゃ凄いんですよね。メインのお父さんに関する文章もめちゃくちゃ良いし。カッコいい。

 

 

 捕まえた愛は片足で逃げた(おへそのおなか)

potarium.hateblo.jp

わかりやすいテーマとか特徴みたいなものは特にないんですけど地の文章が上手なので大体面白いです。ブログは沢山の人に読まれるためには何かに特化し分かりやすい特徴を出したほうがいいなどという人もいますが個人的には黙らんかいと思ってますのでこのまま好きなことを書き続けてほしいなと勝手に思ってます。

 

俺とお酒と時々バーと(八雲みつるさん/note)

note.mu

みつるさんはテキストサイトの後の日記ブログ全盛期の頃、ブログランキングとかすごく流行ってたときから知ってる方で、勝手にインターネット同世代感を感じてるんですけどテキストサイト時代の陰に隠れてあまり顧みられない日記ブログ界隈も色々交流があって、、内容は当然めちゃくちゃいいんですけど、久しぶりに書かれてるのを見て嬉しく思いました。

 

キキララのバイト(hang ngay)

satomiconcon.hatenablog.jp

文字数が毎回ハンパないのだけど文字数が多い割に話が散らからず冗長な印象もなく最後まで読ませる記事を書かれるのですごいと思います。ブログ歴は浅いものの書くたびに上手になって行く感じが恐ろしいすね…。

 

 ピンサロで本番強要された思い出② ピンサロ源氏物語(26歳素人童貞のブログ)

shirotodotei.hatenablog.com

素童さんは本を出されてしまったのでもはやブログのくくりで素人がコメントするべきではないのですが紹介しないわけにはいきません。色々好きな記事はありましたがこの記事が特に好きで、何が好きかっていうとピンサロって楽しそうなところだな、俺もこういう人間ドラマを味わいたいなと今までのエロ目線ではない新しい視点から風俗店を見てしまう良さがありますよね。面白い飲み屋に行くノリで見てしまうというか、とにかく風俗に行く人も風俗で働く人もポップに描かれていて皆すごくハッピーな感じがする。他のエピソードも然りですが、風俗へ行く人、それを迎える人それぞれにこの本の中では後ろ暗いものが一切なくて最高。

 

 可哀想(夢顎んくさん/文字そば)

omocoro.jp

自分も参加している文字そば、他のメンバーの記事見て「うわーこれより面白いの書いたろ」と思って一人勝手に切磋琢磨している次第ですが、皆が面白に向かって突き進む中料理のびっくり水のようにこういうテキストをシュッと入れてくるのがいいなーと思いました。

 

 

以上、2018年の面白い日記記事の紹介でした。もし紹介した記事、ブログを気に入って頂けましたら嬉しく思いますし、皆さんのお気に入りのブログも教えて欲しいと思います。

自分も来年も引き続きブログは書き続けますし、主催するサイトやライターとして参加するオモコロでも沢山記事を書きたいと思ってます。とりあえず来年の抱負はハイエナズクラブや、オモコロに特集記事を書く事ですね…。

今年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします。良いお年を。

思い出のフェアレディ・ゼット

度々書いている通り、昔築地市場で働いていた。築地も豊洲に移転し、最近何かと思い出す事も多い。この年末久しぶりに休暇で日本へ帰るが、5日間は東京にいることだし時間があれば立ち寄ってみたいものである。

今でも思い出すのはあの当時自分の上司だった「課長」のこと。上手くいかなかった大学生活で心身ともに疲弊し、何も成し遂げていないのに大人になり、これから待ち受ける社会人という更に期待の持てない暗闇へ虚ろな目で歩き出した俺にとって、この課長の存在は救いであったといっても過言ではない。

どう表現するか迷うと思い浮かぶのは両津勘吉ルパン3世かもしれない。とにかく破天荒な人であったが、その魅力は課長の放った数々のセリフ、エピソードによってしか説明できないであろう。会ったこともない人に第三者の魅力を分からせようとするのは難しい事かもしれないが、それでも俺は愛すべきこの課長のエピソードを紹介してみたいと思う。

 

課長の愛車は「ゼット」――日産のフェアレディ・ゼットだった。今回の話の主役である。課長との思い出は色々あれど、このゼットには特に印象深いエピソードがある。カッコいい車が好きだという課長は元々スカイラインを所有していたのだが、曰く、ある朝目を覚まし、さあ仕事だとあくびをした瞬間(とき)...

《いやあ、突然だったね、朝起きたら無性に"ゼット"が欲しくなったんだ》

後日談として皆の前で嬉しそうに、まるで突然湧き上がった食欲か性欲のように簡単に語られた世にも奇妙なゼット欲。

課長はその日の仕事を急遽休み、「すいません。"ゼット"を1台ください」と、朝からゼット屋さんにゼットを買いに行ったという。この購買意欲。日本全国課長だらけだったら景気Z字回復である。

 

作業着であろうと常にリーゼント、元々が男前であるのに加え、その破天荒な生き様が災いしとうの昔に家庭が崩壊していた課長。当然のように愛人が居て、俺は何度となくその愛人と課長の逢瀬に付き合わされた。そしてそのデートに使うのは勝負の"ゼット"――。

「おい、行くぞ」と助手席に俺を乗せ、オンナの元へ必ずお気に入りのイニシャルZで向かうのであった。

同じく課長の逢瀬に付き合わされていた先輩に聞くと、これはその当時既にルーチンとなっていた3ヶ月に1度の課長のバイアグラを買う係と並んで、信頼され、気に入られた限られた若手だけが経験出来るスペシャル・イベンツなのだいうが、先輩は「発情した中年を見るのが耐えられず」という正直な理由で執拗なお誘いを断り続け、その付き人役から引退、全ての業務は晴れて俺に回ってきたという訳である。

愛人と会うその一番最初、「今日は特別に、お前にいいオンナとうまい酒を教えてやるよ」と誘われた俺だが、「浮気発覚時のアリバイでは」とも考えつつ、その後もとにかくタダで酒が飲める嬉しさだけで、そうでもないオンナのいる魚民でのデートに5回も立ち会うことになった。

課長の"ゼット"は残念ながら、これが厄介なことにイカした2シーターでいらして、一軒目のデートが終わるや、そこから先はまるでスネオのように「悪いけどこの"ゼット"はツーシーターなんだ」と、自宅から電車で1時間の全く知らない街に俺を置き去りに、課長と愛人だけを乗せた"ゼット"が夜の街へ去っていくのが常。性欲の赴くまま、自由に向かって走り去るあの後姿はいつも、まぶしかった。

 

 

職場である築地は車通勤が禁止されていた。駐車場はあったが、それは出入りの業者用。言うまでもないが、課長は当然のように車で通勤していて、それは大体スカイライン。ただし愛人と会うときはご存知の"ゼット"――。フォークリフトとトラックをすり抜けながら早朝の築地に現れる場違いな白い"ゼット"を見て「今日はヤるんだな」と皆が眺めていたものである。

禁止されている自家用車で出社してきた課長は堂々と役員用の駐車場に停めていた。そこが常に1台分あけてあることを知っていた課長は、そこを自分の駐車場として利用していたのであるが、あまりに堂々と停めるので数年間ずっと不問であったという。

役員用駐車場が空いていないときが圧巻であり、築地市場の門の真横、運送業者やフォークリフトが行き交う200%交通の妨げになる門の入り口付近に堂々とヤクザ停めしては渋滞を引き起こし、築地市場の場内放送で《門の真横に停めてあるねずみ色のスカイライン、至急移動してください》と呼ばれていたものである。

課長はこの放送で度々「ねずみ色の」スカイラインと呼ばれるのを「ねずみって言うんじゃねえよッ!!」などと大変嫌っていたのだが、オメーはそんなことを言える立場か。

そして課長のしもべだった俺は「キーは挿しっぱなしだからお前いってこい」と言われ、それを移動させにいくのである。警備員、周囲の八百屋、フォークの運転手からも罵声を浴びせられながら、もはや築地市場内のどこにも停める場所も無いねずみ色のスカイラインを操り、当時ペーパードライバーの俺は半泣きになりながら雑然とした市場内をオロオロとさまようのであったが、この車移動係りもスカイラインではなく"ゼット"だったときは更に大変。

「絶対にこするなよ」という厳重な注意を何度も受けたあと、引き取った"ゼット"を運転する最中もひっきりなしに電話が掛かってきては「こするんじゃねえぞ!」「邪魔なヤツがいたらクラクション鳴らしまくれ!」などといった心配の電話が掛かってくる訳である。

 

こうしてみると課長のゼットは俺にとって若干迷惑な存在だったように思えるのだが、一度ゼットに、ゼットに乗った課長に助けられた思い出があり、それを紹介してこの話を終わりにしたい。

ある日のこと、午後過ぎになって発覚した取引先への商品の出荷漏れ。新人にありがちな単純ミス。よくある話である。しかし向け先は築地から車で1時間はかかるであろう千葉方面のスーパー。本来ならばついていなければいけない時間はもう目の前。たった1つの荷物に運送屋をチャーターするのも現実的ではない。

「俺は一体どうしたら...。」

新社会人の俺を襲うちょっとしたトラブル、パニックだった。しかしみなさん、もうお察しはついているでしょう、そこで登場したのが...課長の、、ゼェェット!

「俺の"ゼット"で運んでやるよ」

話を聞きつけ颯爽と現れた白いゼット、性欲の象徴。そしてそこから降りてきたリーゼントの課長。ツーシーターのゼットの助手席に荷物を乗せ、「悪いけどこの車は2人用なんだ」と映画版のスネオのような好感度で一人配達に行った課長。あの時のゼットの後姿...。

あまりに格好の良すぎる課長であったが、なぜだか分からないがその日の自分の仕事は全く手付かずのまま。おやおやおやっ、て思ってたら、さらにどういうわけかそのまま課長はゼットくんと一緒におうちに直帰しちゃってて、モリモリ残された大量の仕事の処理のために、俺を含めた部下の3人は遅くまで会社に残ったのであった。

「悪い人じゃないんだけど」の前置き

「悪い人じゃないんだけど」と前置きすれば悪口は幾らでも言っていいと思っている輩がいる。

「悪い人じゃないんだけど」を連呼しながらその人のエピソード、性格、癖、外見から家族に至るすべてを「悪い人ではない」と言いながらも全否定、ワタシ体力ないから絶対無理とか言いながら走り始めて悪口のフルマラソン42.195km無事完走するような、そんな輩があちこちにいるのである。

もはや言うまでもないが「悪い人じゃない」という前置きはもはや人の悪口を言いまくる上で自分が「性格の悪い人と思われたく無い!」っていう為にいう保険、牽制球に過ぎず、フルマラソンを完走すべく給水ポイントで水を手に取るがごとく、時にはまるで水泳の息継ぎのようにコンスタントに放たれる。彼らが走り続けるため、泳ぎ続けるために。全否定というゴールを目指して...。

しかしであるが、シツコイくらいに「悪い人じゃないんだよ、○○なところとか、俺は実際評価しているし、でも」など、いわゆる悪口界のYes, But法などを駆使し、さながら来るべきサビの前のAメロ、Bメロのようなおあつらえ向きのメロディラインはどうだろうか。結局どの曲もソレになるんかい!といいたくなるEDMのサビみたいに、結局悪口言うなら最初から正々堂々といわんかいと思う人が大半なのではないだろうか。

「アイツは俺にとって都合の悪い、大変嫌いなヤツだから俺は性格的な特徴の中に時々味付けとして身体的特徴を織り交ぜた各種悪口を言ってスッキリしたいし、今からとにかく自分の都合の良いようにアイツの色んなところを全否定して今日も自分こそが正しいことを確認させてもらうぜ」って言われるとさすがにドン引きするけど、でもまあ大体「悪い人じゃない」以外の言われてる内容を要約するとこういう感じになるよね。

キノシタが家にやってきた

omocoro.jp

先日「古本屋にあったヤバいエロ本」というテキストをオモコロの文字そばという連載コーナーで書かせてもらったのだけど、このキノシタについては別のエピソードがあって、それはこのキノシタがなんと自分の家に親の本の買い取りに来るというあまりよろしくないシチュエーションのことである。

母親が家に眠ってる本を古本屋に売ると言い出して、量もさることながら結構価値のある本もあったらしくて、週末にキノシタがそれを取りに来るという。

そもそも俺の地元にはそんなに沢山の古本屋があったわけではないので、タウンページなどで調べた結果、キノシタが選ばれる確率というのもそんなに低くはなくて、案の定キノシタさんが見事選ばれましたよと。

まさか中学生の息子がこんな古本屋にお世話になっているなどとは母親も思ってないだろうし、家の中には本を買った形跡もないから、「あ!これはこれは、いつもどうも!(手はおっぱいのポーズで)」などやられたらたまらないと思ってキノシタがやってきたら部屋に閉じこもり、縁側で本の査定みたいな品定めをしているのを黙って聞いたりしたものである。

というか、こっちとしてはキノシタなんてただのエロ本屋だと思ってるわけなのでそんな輩にうちの大事な本の価値がわかるのか、というか、そんなエッチなヤツがうちの家の敷地に入ってきたことに強い警戒感を示したりなどしたものである。母親のパンツとか盗んでいくんじゃないかなど、平素は格別にお世話になってるくせに高まる警戒度。

まあそれからですよ、自分ちの本がキノシタにあると思うともうなんか立ち読みにも行く気もしなくなってしまい、更に誰からともなくエロビデオが回ってくるようになってからというもの、ほぼ理由は後者だけどすっかり立ち寄らなくなったキノシタであった。

 

つり革ソムリエとの遭遇

昔、仕事の移動中に乗っていた電車の中での話。

「ガーン」というドアを激しく閉める音とともに隣の車両から移動してきたのは50代の男性。服装や表情といった外見から放たれるちょっと普通じゃない感じに加え、独り言にしてはかなり大きな音量で何かブツブツ言っている状況からして、東京の電車ではほぼ毎日我々が遭遇する「関わらない方いい人」の類かと思われた。

時間は午前11時で乗客も少ない下りの列車。そのうち、彼の行っていた奇行、またなぜ隣の車両から移動してきたのかはすぐに周囲の乗客に明らかになる。

比較的空いていた電車内、彼は人が握っていない空いているつり革全てをひとつひとつ確かめるように握りながら移動しており、その姿はまるでつり革の握り具合を確かめるかのよう。次の駅で降りるからと俺は立ってつり革に掴まっており、どうやらは彼も一応人が握っているつり革は避けるという社会性も持ち合わせていたものの、接近し、通過していくときには軽い恐怖を感じた。

車内の視線を一身に浴び、また他の乗客に避けられながらもしつこいくらいにつり革のひとつひとつを小まめにチェックする男性。

そんな彼が突然足を止め、突然グッと握り締めたつり革があった。両手で握り締め、ブツブツつり革に語りかけるように10秒ぐらいそこに居ただろうか。彼の電車内の移動はそこで終わるのか。乗客もその動きをジッと見つめたが、しばらくするとまた歩みを始め「ガーン」と強めに締めた扉の音ともに隣の車両に消えていった男性。

車内の視線が彼の背中から先ほど彼が凝視したあのつり革に集まっていたのは言うまでまでもなく、そして次の駅に着き、その降り際、俺と別の男性が同時にそのつり革の何が違うのかと確認しようと同時にそれに近づき、目が合い、俺たち、それを見ていた乗客の中に妙な気まずさだけが残った。