アメリカの田舎、孤独のグルメ

関根勉だったような気がするが、たまに行く街の定食屋でご飯を食べていたら、水を注ぎにきた店のおばちゃんに「美味しいですか?」と聞かれたので「美味しいです」と答えたところ、次にその店に来たら「あの関根勉も絶賛!」とという張り紙とともにそのとき食べていた鶏のから揚げ定食が紹介されていて次から行きにくくなったという話がある。

仕事でアメリカの地方へ車に乗って泊りがけの出張へ行くことが月に3、4回はあるのだが行く先々で困るのが晩御飯である。都市部から車で2、3時間離れた地方の本当に田舎のほうへ行くと市街地には個人経営の小さな、地元民しか来ないような「John's Dining」みたいな素性も味も分からない入りにくいお店かあとはマクドナルド、タコベル、バーガーキングといったとにかく腹を膨らませるだけのファーストフード店しかない。

なので時々、Googleで周辺を調べて日本食レストランがあると、それが例え中国人、韓国人経営のいわゆる「似非ジャパニーズレストラン」であろうと、お店のメニューの中身が類推されるだけでJohn's Diningよりはハードルが大きく下がるし、何より形だけでも日本食が、ひいてはお米が食べられるというだけで異国のそのまた辺境に来ている夜の寂しさも幾分か紛れるというもの。

都市部ではほぼないが、アメリカでも結構な田舎のほうへ行くと外国人、特にアジア人は途端に珍しい存在になり時々あからさまに店員がものめずらしそうに見てくる場合がある。だからJohn's Diningみたいな地元の人が集まるお店には入りづらいし、似非であろうと日本食レストランがあるとその町には日本という異文化の存在が一応認められているという勝手な安心感に繋がり、そこを選んでしまうのである。

田舎の日本食レストランに入るとそれでもやはり客はアメリカ人ばかり、そこに客として日本人が入ってくると「おっ」という、ものめずらしさとは違う「本場の日本人も来店!」みたいな視線を勝手に感じてしまう。これを自意識過剰の類だとは思わない。というのも、こちらが日本人だと分かると店員が逆に色々と聞いてくるからである。

うちはうまい?どれが日本で人気なの?この料理はどうやって食べるの?

とても美味しいよ、そりゃカツ丼でしょう、日本だと酸っぱいソースをかけるかな、など答えるとホールの若い中東系の若者は「ありがとう、Enjoy」など言ってニコニコして去っていく。少し離れた席のアメリカ人家族がそれをジッとみている。

彼らの中で「あの日本人も絶賛!」となったかどうか知らないが、パサパサのお米で作られたスパイシー・ドラゴン・ロールなる日本には存在しないSushi Rollを食べながら、俺はすき屋の牛あいがけカレーに思いを馳せるのであった。