コウタレンジャー・ショー

愛知県幸田町にコウタレンジャーという戦隊がおり、コウタレンジャーショーが幸田町の町民会館で中心に開催される地元のお祭りの中で子供向けイベントの一つとして用意されると近所のスーパーに張り出された告知で知ったものだから、当時戦隊ものにハマっていた息子に生の戦隊ショーを見せてやりたいという親の子を想う願いで、内容こそあまり期待はせずに隣町の幸田町まで車で20分ほど走らせ行ったものである。

コウタレンジャーショーが始まると子供たちは挨拶を呼びかけるコウタレンジャーに忠実に大声で元気よく挨拶を返す。俺の子供も目の前に現れたヒーローにやや興奮気味で、いわれるがまま「こんにちは」「こんにちは」と何回もこんにちはを大声で言わされ、おいもうそろそろやめにしろと思う親をよそに真剣な眼差しで「こんにちは」とショーに参加している。

戦隊者ショーには敵の登場は不可欠である。悪があっての善、敵がいてこその正義の味方である。しかしコウタレンジャーの敵が登場した瞬間会場の子供たちの反応は意図せぬもので、歓声が悲鳴に変わり、逃げ出す子供で客席が苦笑と困惑とに包まれる。どこからかそういう敵キャラの斡旋所があるのか調達してきた敵キャラは必要以上に恐ろしい外観で作りこみの若干甘いコウタレンジャーとはおよそ釣り合わない完成度の高いルックス。「オラァ」と子供たちを捕まえるようなムーブを見せながらステージを降り客席の子供たちに向かっていこうとする敵の手下を見た瞬間に恐怖はピークとなり、にわかにパニックになった何人かの子供たちが客席から逃げ出し、その中に俺の子供も含まれていた。

子供が迷子になってしまった。コウタレンジャーショーに出てきた敵に恐れをなしてこのさほど広くはない祭りの会場の隅々を探しても見つかる気配がない。遠くからコウタレンジャーを応援する子供の声。コウタレンジャー大ピンチ。負けるな負けるな。みんなでコウタレンジャーを応援しよう。妻と手分けして引きつった顔で必死に息子を探した。子供が迷子になってしまった。

ハッハッハ、愚かな人間どもめ。敵の声。貴様のせいだ。息子は4歳。怖くて隠れているのかもしれない、自力で駐車場を目指し車を探しに戻ったかもしれない。広範囲に探しすぎてその間に親を探してさまよっているかもしれない。見つからない息子に対するイライラしていた気持ちがだんだんと不安に変わる。コウタレンジャーがんばれがんばれ。声援が聞こえる。

一瞬冷静になったときに思いつき、そういえばと祭りの事務局へ出向いて放送してもらうことにした。自分の息子の特徴を放送してもらい見つけた人に保護してもらうしかないのである。しかしそんな事務局にいくとそこには厳粛な面持ちで息子が座ってお菓子を食べていた。

「ちょうどお父さんの名前を放送するところでした」

息子は俺と妻の名前を事務局の人に伝えると極めて冷静にお菓子を食べていた。息子4歳。やった、やった。コウタレンジャーが敵を倒したのか遠くから拍手が聞こえる。コウタレンジャーは無事敵を成敗。

どうだった、大丈夫だったと聞くと息子はたのしかった。と答えた。コウタレンジャーショーは終わっていた。