子供の頃、俺が母親に「お母さんの子供の頃は恐竜いたのか」と真顔で聞いたという話がある。たかだか生まれて数年の子供に何億年前という概念が理解出来ようはずもなくギリギリ想像し得た昔が「母親の子供の頃」というわけである。全く同じではないにしろ子を持つ家庭には似たようなエピソードはあるのではないだろうか。
俺の母親もこの質問にはよほど衝撃を受けたのか、何かあるたび俺を茶化すようにこの話をし結婚すれば妻に話、子供が出来れば息子に聞かせ一生風化させまいとしているようだ。
その時の話に戻るが、母親も母親で子供らしい質問をする俺の夢を壊すまいと気を遣い「だいぶ減った頃であったが、まだ田舎の方にはちょっとは居たようだ」などと嘘をついたものだから、俺はというとその後しばらく「生き残りがいるかも」と時々近くの山へ弁当を持って探検に行っていたという。不幸な話である。
案の定「居た」と言って帰ってきたらしいのだが三十数年前、もはや何を見たかよく覚えていない。
今は俺が父親である。子供に同じ質問をされた日には「確かひいじいちゃんが恐竜だったような」ぐらい言ってみようかと思う。
「発掘しよう」とか言って墓を掘り始めたら大変だからやっぱりやめとこう。