「からしでもあつめるか」
確かきっかけはそんな些細な思い付きだったように思う。集めれば何かが起きる、集めてみてわかることがある。
それから俺は4つのからしを集めた。長野駅の中で食べた信州おでんについてきた和がらし、妻が買ってきた納豆の中に入っていたからし、東京のミニストップでもらったからし、4つ目のからしはもうどこで手に入れたか忘れたが、とにかく俺はからしを集めようとしたのである。
ある時子供に集めているからしが見つかった。
「おとうさん何でからしをあつめてるの」
ストレートに聞かれてしまったが答えようがなく、バツが悪くて「あっちへ、いけ!」と追い払ってしまった。走って去っていく息子の背中を眺めながらだめな親だと反省した。
ある時妻に言われた。
「子供が『おとうさんがからしを集めているのはなぜか』と聞いてきたけど私は答えようがなかった」
真顔でそんなことを言われてとてもつらかった。息子は俺がからしを集めていることを依然気にしていたようだが、同時に俺に聞かず母親に聞くことはなかろうにと思った。正々堂々俺に聞けと。あつめているからしごときで、4歳の息子に気をつかわれているのが情けなかった。
最近息子が食い終わったゼリーの容器を集めていることを知った。16個も集めているそうだ。今後は食い終わったヨーグルトの容器を集めるのだと母親に言っていると聞いた。
「お前は食い終わったゼリーの容器を集めているそうだな」
そういうと息子は無言でそれを持ってきて俺に見せたので、頭をなでて「お前はこれからもゼリーの容器を集めなさい」「おとうさんが応援するから」
そういうと息子、ゼリーの容器を集めることを認められた嬉しさで突如としてゼリーの容器をテーブル一杯に並べ始めたので「あーあーあーもう!おとうさんがご飯食べてるときは、しないで!」と言うとそれをもって去っていった。
だめな親だと思った。
俺はもっとからしを集めようと思う。