何者かに自転車を鬼ハンにされた中尾くん

「うわああ、俺のチャリが...」

オラッ、オラァッ...なる小声の雄たけびとともに発揮される隣の自転車への攻撃性。

家までの帰り道、鬼ハンをを直すことなくそのままで帰った中尾君は正直まんざらでもない表情だったので心の中にコッチの世界への憧れめいたものがあったのかもしれない。

疑問形の屁との対話

最近屁が大体疑問形として出てくることが増えてきた。疑問形、つまり通常の屁を「ブッ」だとすれば疑問形は「ブー?」というもの。語尾が上がる。その判定は至極シンプルである。

放屁するたびに屁が俺に尋ねてくるように思えてきた。大丈夫か、ちゃんとやってんのか、つらくないか。わずらわしさを感じるときも、また屁に悩みを打ち明けたくなる朝もある。疑問形の屁との対話。

時を同じくして7歳の息子の語尾も上がるようになってきた。息子としてはそんなものと時を同じくしとうないと思うが、確かに息子の語尾が妙に上がるようになってきた。どうやら英語の上達と共に日本語もそれにつられて英語のアクセントが混ざって来たのではないかと思う。

俺の屁もそうなのだろうか。俺の英語はまだまだであるが、下の口は正直といいますしこれは俺の英会話上達のひとつの兆しなのかもしれない。

疑問形の屁がお前頭は大丈夫かと尋ねてくる。俺はもうダメだが息子にはいい人生を歩んでもらいたい。

ジャニーズカウントダウンライブはマジですごい

ある年の大晦日23時、様々な年末番組のザッピングの果てにたどり着いていたのは「ジャニーズカウントダウンライブ」だった。

各局が年末のスペシャル感というものを履き違え、無駄な馬鹿騒ぎに興じる中、この番組は、このジャニーズカウントダウンライブだけが年末にふさわしスペシャルな感じを表現していたのである。

俺は元来ジャニーズのファンなどではないまったくの素人であったが、他の番組があまりの体たらくぶりであったためか、実家のリビングで男一人、気付いたらこの番組に完全に見入ってしまっていた。

ド派手な演出、煌びやかな衣装、悪趣味なゴンドラ!これぞ在りし日の日本の大晦日
あっちで嵐が歌い終わったと思ったら、今度はこっちでV6、かと思えばその下からKAT-TUNと来たものだ!みろ、タッキーがアリのようだ!

「ならばNIN-JAは?」と待ち構えるがさすがにデッドストックを引っ張り出してくれるほどのコアなサービスは無かったものの、それでも大先輩・ヒガシがちゃっかり登場してくれば「あ、ひがしだ」など俺も見たことをそのまま声に出さざるを得ないほど大興奮。ファンは勿論、ファンならずともその怒濤の攻めに圧倒されっぱなし。つーわけで、ジャニーズカウントダウンに勝る大晦日番組を私はしりません。

そして「ん?これは?!」と、デジャヴのように思い出したのは小学生のとき。あれは子供クラブのソフトボール大会の後で行った地元のバイキング「ヒコバンバン」で初めて体験した「好きなもの食べ放題」の感動と同じであった。

あっちにカレーがあるかと思えば、今度はこっちで焼き肉、かと思えばその下からロールケーキと来たものだ!あと、名前わからんけど美味い肉などがとにかくいっぱい!

てな具合に熱狂する女子ファンたちの興奮たるや、恐らくあのときカレー食べるぞという気持ちと焼肉を食べるぞという気持ちで意識と体が5対5に分かれた結果体が半分に裂けて死んだ俺とほとんど同じものだっただろうと想像できる。

 

過去のバイキング体験に思いをはせる俺の前では、年越しカウントダウンを経て更に盛り上がるジャニーズカウントダウンライブが続く。その後もジャニーズ様の責め苦は遠慮知らずときたもんだ、番組中盤、亀梨クンと松潤の夢のコラボが実現したときには、俺は「ならん、ソレとソレとは混ぜてはならん!!爆発するぞ!」と叫んでいたものです。ヒコバンバンではコーラとカルピスを混ぜたものを何杯も飲んで腹を下した俺がそう思うのだから間違いがない。

あの大晦日スペシャルな感じを出していたのは間違いなく「ジャニーズカウントダウンライブ」ただひとつ。今年はひとつ、皆さんも是非ご覧ください。

ヤクザに絡まれる機会があるか

「ヤクザに絡まれた」なんていう言葉を最近あまり聞く機会も無い。最近ヤクザはなかなか絡まないし、そもそも街で「アッ!ヤクザだ!」と分かるような出で立ちもしていないので絡まれた相手がヤクザなのかどうかも分からないかもしれない。暴力団排除条例があるわけだから、ヤクザだって最近では不用意に、無計画に絡むと打撃を被る時代である。

だが以前仕事で訪問した会社では「ヤクザに絡まれた」という3名の方の貴重なお話を同時に聞くことが出来た。なかなか最近では聞かない「絡むヤクザ」の存在に、まだまだ日本も捨てたものではないと心を躍らせてその話を伺うことにした。

 

聞けばこの会社、社用車を停めるビルの地下自動式駐車場にて、近隣に事務所を構える「ヤクザ」と同じところを使用しているのだそうだ。分かってんならやめとけよと思うのだがやめないらしい。本当にヤクザなのかどうかは定かではないが彼らはヤクザと呼んでいる、それだけが事実である。

自動式駐車場は地下スペースを有効に使えるため都市部のビルでは多く採用されているのだが、地下スペースに停めた車をボタンキーで呼び出し、昇降・水平移動にてオートマチックに運ばれてくるまでの時間は他の利用者はしばし待っていなければならないという難点もある。そしてまさに、そのほんの2、3分の待ち時間にこそ「ヤクザ」との接触が多発し、彼ら曰くそこで不幸にも絡まれてしまうのだという。

 

一人目、営業の仮にAさんとしておこう。Aさんのケースはこうである。

「いやあ、オレがクルマ出そうと地下のシャコに行ったら呼び出し口のところにヤーさんが電話しとったんヤ。コッチかていそいどってソイツの電話終わるまで待っとられんからナ、『あのう、車出させてもらってよいですかー』って懇切丁寧に言うたらヤなあ、点滅するランプを指差しながら『見たら分からんか?今車出しとんやろがボケが!オ?!』って凄まれてヤなあ。いッやあ、ほんまヤクザはタチ悪いわあ・・・」

続けてもう一人。Aさんの上司、Jさんとしておこう。Jさんのケースはこう。

「いやいや、あるわあるわ、似た話あるわ。オレのクルマようやく地下から上がってきたからナ、車出そうと乗り込んだときにナ、ほなら、電話掛かってきたんヤ、それ専務ヤったもんヤから取って話をしトッタんヤけど、それがようさん長話になってヤなあ・・・、そんでしばらくしたらドンッって車が揺れる音がしてヤな。ったら、コレよ(頬にキズのジェスチャーをしながら)。窓開けろっていうからやなあ、ハイハイいうて開けたら、、『お前ナニやってんだ?オ?蹴られても文句いえねーよな?!オ?!早よ出せや』ってボディ蹴りながら顔を近づけてくるワケよォ。いやあ、ほんまヤクザはタチ悪いわあ・・・・」

最後、部長。Bさんとしておこう。彼は駐車場ではないが、運転中の経験談を語ってくれた。

「あいつらタチ悪いけんの~!ヤクザのクルマとは揉めんほうがいいで~!昔三重に出張行った先で、当時のセンムのせとったら、センムが急に道間違えた言うもんでUターン禁止のとこやったけど『ええからせい』てセンムいうから急ハンドルでUターンしたらよりによってヤーコーの車にぶつかりそうになってやなあ・・・、おりてきたコレに(頬にキズのジェスチャーをしながら)アレよ(胸ぐらを掴まれるジェスチャーをしながら)」

「・・・・」

賢明な読者の皆さまならすでにお気づきだろうが、いずれのエピソードも悪いのはコイツらである。

「いやあ、オレが鮫の居る海域でヤなあ、海水浴をしトッタんヤ。したら鮫が前方をゆた~とおよいどったんヤ。ジャマやなあとおもったんで、モリで懇切丁寧にツいたらヤなあ、ガッブゥって噛まれてヤなあ。いやあ、ほんま鮫はタチわるいでえ・・・」

こういうことではないのか。

こんにゃく畑はタチ悪いけんの~!こんにゃく畑だけは食べんほうがいいで~!昔三重に出張行った先で、当時のセンムと飯くっとったら、センムが急に冷えたこんにゃく畑が食べたいいうもんで、『凍らせると硬さが増します』って書いてあったけど『ええから冷やせ』てセンムいうから凍らせたらやなあ・・・」

こういう輩ではないのか。

やりきれない思いをぶつける先は商談ノートの中だけであるからノートの端に「ヤクザ、悪くない」と殴り書きして「今後ともよろしくお願いします」とその客先を後にする俺であった。

クラクションは無表情で鳴らせ

20代の前半。2年ほど狭い築地市場内をターレットやフォークリフトに乗って荷物の回収などをしていた。

行きかうフォークリフトの大半はガス式で、セリも終わったころに清掃が入ってくれば更に長年蓄積したホコリが舞い上がる。すべての荷物が引き上げられる頃には、排ガスとホコリで空気は最悪。昔はアスベストが使われており、撤去はされたものの粉塵は市場のあちこちに蓄積されていたのではないかと思えてならない。

このように移転する前の築地市場は狭く汚く危険も伴う昔でいう3K職場に近いものがあり、その実冬になると乾燥もあいまって俺もほぼ毎年長期に渡って風邪を引くなどしており、そこで働く人間の健康面でも怪しいものがあったので個人的には移転してよかったと思っている。

そのような環境面の理由もあってガス式のフォークリフトターレットはクリーンで騒音も少ない電動式へと変える動きが盛んになったのだが、電動式は音が静かなことが災いし、うるさい市場内ではその接近を人に気づかれないというデメリットもあり、クラクションなどを鳴らす場面がかえって増えることで騒音面ではあまり改善されたようには思えなかったものである。

そして、またそのクラクションであるが、働いている人々の中には皆様のご想像通りテヤンデエテイストの荒っぽい人も相当数いるものだから、歩いている知らない人にマシンの上からいたずらにプップードケドケなど、特に若い者が変に鳴らすと「ナンダテメエ」と怒らせるという事もままあり、先輩からはクラクションを鳴らすときは努めて無表情に、目線は合わせず無表情で、笑顔でもダメ、当然迷惑そうな顔など絶対にしてはダメという指導を受けたものである。これはただの合図、「道を空けて欲しい」という記号でありそれ以上でもそれ以下でもないことを無の表情で示すのだと。

「これは一般道運転するときも同じだけど」

そういう前置きで言われたのはクラクションをするときはできれば変なまばたきもするなと、変な意味が入るからと、たかがフォークリフトのクラクションでありながら、さながら俳優への演技指導のようにそう言われたものである。何の話をしていたのだろうかと今でも思う。

築地から豊洲市場へ一斉に移動するターレットの列をニュースで見た。その中にガス式のターレットがまだ残っていたのか分からなかったが、豊洲新市場はクリーンで清潔な最新鋭の市場になるらしいからもしまだあったとしても早い段階でガス式の車両は一掃されるだろう。クラクションをまばたきするな、無表情でやれなどど後輩に演技指導する先輩もいなくなるだろう。

「ガス車は重心が低いので片輪走行ができる」

そういって電動の連中に見せ付けるように、仲卸の若い連中が築地市場の立体駐車場から市場へ繋がるスロープをガス式ターレットで高速で下ってきてはカーブを急ハンドルし片輪走行する築地のダイナミックな朝を見るのが俺は好きだった。