今も苦しむ7年前の古傷について

2010年のある日を境に、睡眠不足が続いたり、強いストレスを感じたりすると決まって右足の一部分が小さく腫れ上がるようになってしまった。
その「ある日」と言うのは他でも無い、俺が人生初の野外フェスから帰って来たあの日である。
友達に誘われ人生初の某野外ロックフェスに行ったらば「てめえこのネクラ、こんなところ来やがって場違いなんだよ!」とばかりに案の定悪意あるブヨという虫に噛まれて大変な目に遭った。
すなわち、俺が今でも悩まされる足の腫れとは他でも無いこの7年も前にブヨに刺された痕。 それは死すらも覚悟した壮絶なストーリーの傷痕でもある。

そもそも皆さんはブヨという虫をご存知だろうか。渓流や山間部に住む虫だ。ハエの仲間らしく見た目もハエのような感じだがこれほど恐ろしいとは知らなかった。
虫で一番恐ろしいのは今まで蜂だと思っていたが考えは改めなければならない。ブヨも相当ヤバい。だのになぜこんなにマイナーなんだブヨよ…。俺がお前をシーンにフックアップするよ。

 

というわけでブヨにやられたと思われるのが10月10日。刺された時は気付かず、件の野外ロックフェスから帰宅したその日、足を見て初めて異変に気づいたわけだ。
右足のヒザから太ももの辺りに三箇所、血豆のようなものが三つある。その血豆を中心として周囲半径1.5cmほどが蚊に刺された様に盛り上がっている。
それがブヨの仕業だと気づかぬ俺だったが「おやッ、なんかブヨブヨしてるッ!」なんていうハイレベルな昆虫JOKEを無意識のうちに成立させてしまい、この辺りはもう笑いの神様に見初められた天賦の才能というしかない。それが面白いかどうかは別として…。
ただ、そこから数日。さらに症状が悪化してきた頃、黒ずんでただれたような患部に「さらにブヨブヨしてきた」と改めて自らスペシャルヒントを出していたことを思い出すと、ひょっとしたらこれは過去にブヨに噛まれたことが原因で死んでしまった亡霊からのありがたいメッセージだったのかとも思えた。

このように、ブヨに噛まれるとまず噛まれた場所に出来る血の塊を中心とした赤い腫れが広がる。ここから先は個人差はあれど二週間後には痛みにも近い痒みが患部を襲い、掻かずには居られなくなる。
痒みが更に痒みを呼ぶシステムで、掻けば掻くほど毒が回るかのようにその範囲がどんどん増していく有様。噛まれた三箇所は広がり続け、気づくと三箇所の腫れが完全に合体。噛まれた部分はドス黒くなり、足全体が腫れ上がっていたのをみると流石に恐ろしくなるものである。

最初に異変に気づいてから実に3週間後、ようやく得意のインターネットでこの腫れの原因として「ブヨ」にたどり着いた俺は、続いて「リンパ腺炎」という病名、さらには「死ぬこともある」と出てきたところでようやく病院行きを決意。俺はインターネットしか信じない。

翌日、急いで病院へ行くと医師は「ブヨだね」と一発で原因を言い当てる。「だってブヨブヨしてるもん」が理由だったらどうしようと思ったが特に説明が無い。病院あるあるみたいなもんなのだろうか…などと思いを巡らす俺に対し、先生は患部を触りながら「これはリンパ腺炎の一歩手前だね」と軽くおっしゃるので「ネ、ネットでは『死ぬこともある』と書かれておりましたが・・!」と思わずうれしはずかしネット情報をポロッと口に出してしまいとても後悔したが、医師は「ふっ…」と失笑する以外は完全にシカトだったので俺はむしろこのままリンパなんとかで安らかに死んでもよいと思った。

先生にもらった薬を飲んだその晩、毒素を外に出せい!とばかりに体クンが張り切っちゃったのか、夜中に尿意に叩き起こされる程のものすごい量のションベンが二回。
それがもう「うおおおおとまらねえ!!」って実際に口に出して言ってしまうほどのレベルで、このままションベンしながら夜が明けるんじゃないかと冗談抜きで思ったほどのモンが何と一晩に二回もあって、「人間の体の60%は水分」が本当なら俺は今緩やかに危険エリア突入中やもしれないという不安の中、なぜか無事一通りションベンが終わったあとになぜかウンコもしてしまった。ウンコにしてみれば血気盛んなションベンに刺激されて「俺もいるぜ」といったところか。やかましいわ。

 

こんな形で足に刻まれたブヨの噛み痕。冒頭説明した通り、どういうカラクリなのか今でも時々姿を現わすのである。
俺が言いたいことは野外ロックフェスなど行くものでは無いということです。