恐怖!めちゃくちゃ無愛想なドイツ人との商談

俺の仕事は技術サポート的なものである。かつて築地でフォークリフトに乗りセリまでしかけた文系の俺がアメリカで技術をしている理由は俺がめちゃくちゃ頑張り屋さんである他に理由はないのだが、その辺をよりたくさんの皆さんと分かち合い褒めてほしい気持ちは置いておいて、この技術サポートというのは全米各地で主に在宅勤務をするアメリカ人営業マンに呼ばれ、一緒に客先へ出向き不具合対応や営業をするのが主業務である。

先月のこと、ある営業マンに何度督促してもまったく進捗しない案件があり、「自分で行くから面談組んでほしい」と依頼した客先があった。製品サンプルを大量に投入した大きな案件である割には営業マンの報告や活動が淡白でまったく進捗がない。

この営業マンに問題があるのではないかと正直疑っていたのもあり、一人で乗り込んで話をつけるほどの腕も英語力があるわけではないが、それほど自分のほうにも日本側から問い合わせや督促がキツくなったものあって一人でいくところまで追い詰められたのが実際のところである。

「来週月曜日の1:00PMによろしく」

翌日、アッサリ面談の時間を知らせる返事が来たことからいやな予感。自分が行かなくていいとなるとこうも簡単にアポイントが取れるというのは、何らかの理由で自分のほうから客先に連絡をしていなかったというのは誰もが思いつくところ。

 

指定された翌週月曜日、客先エントランスで聞いていた担当者名のエドウィンという男性の内線に直接電話をし来訪を告げる。応対する先方の口調は極めてぶっきらぼうでそしてアメリカ人では無さそうな、いわゆるブロークン・イングリッシュであった。

現れたエドウィンさんは40代のドイツ人、身長190cm近い長身で内線電話で受けた印象どおり非常に不機嫌そうな表情。あとこういうのを確認している場合じゃなかったんだけど、エドウィンと聞いて一応チラっと、履いてるブラックジーンズみたらリーバイスでまあそうだよなと思いました。

そんな中でこちらにとって良かったのはエドウィンさんの英語が巻き舌のアメリカ英語ではなく割と聞き取りやすかったことぐらいで、あとはめちゃくちゃ厳しい表情で開口一番放たれた「先に言っとくけど、うちはあまりおたくとの取引には乗り気ではない」というセリフであの営業マンが近寄ってない理由が何となく分かってしまった。彼の口から出るのは当社営業マンの対応や見積もりの値段、また他メーカーがいかに優れた対応をしているかという話。それをめちゃくちゃ厳しい表情で淡々という訳である。

巨大なドイツ人にカマされた先制攻撃に1年前なら心が折れてアイムソーリーとだけ言い残し泣きながらJ-PopをBGMに直帰したところであるが、これで引き下がるといよいよゲームセットである。「なるべく考えて喋らなくていいように先に色々と英語で書いてある駐在員あるあるパワーポイント」で形勢逆転を図るも、ページが進めどエドウィンパイセンの心に俺の英語が響く様子がない。頷きもしない。

状況からして見込みも薄い、無反応のドイツ人の前でマンツーマンで行う地獄のプレゼンテーションであったが、「もうやめま...すか...?」など途中で終わるわけにもいかず、というか俺は途中で終わりたかったけれども!、その「やめちゃう?」的なニュアンスを英語では到底表現出来ず、もはや心だけは折れないようになんとか完走して帰ろうと決意、終盤に差し掛かった所である。

「え、日本の会社?日本人?」

この俺の見事なまでの日本顔に逆に今までなぜ気づかなかったのか不思議だが、資料の途中に出てきた一箇所の英訳漏れの部分を見てエドウィン御大が今までと違う声のトーンでそう質問してくるのである。

「日本はドイツの次に好きな国。日本製もとても好き。」

営業マンがいかにきちんと説明をしていなかったかである。我が社の自己紹介もほどほどに商社を経由して大量に製品サンプル投入をしていたのだから恐ろしい話である。もしかしたら訪問した事すらなかったのかも知れない。

エドウィンさんは俺が日本人だと分かると急に態度を変え工場を案内してくれて沢山情報をくれた。途中何いってるか正確には全部聞き取れなかったけど日本人の真面目さとかその製品の信頼性などを色々と褒めてくれて、今の俺は完全にそれに乗っかっているだけだけど、ここまでの世界で日本のブランドイメージを形成してくれた過去の先輩方には感謝するばかり。

「正直あなたの会社はこの案件で後れをとっているけど、何か助けになれることがあれば連絡してください。」

最後にそういって握手をして分かれたエドウィンさん。こんなインターネットのみなさんが好きそうな話が実際にあるんだなと思いながらJ-PopをBGMに帰路についた。