バスケットボールにおける「ダブルファウル」という都市伝説について

バスケットボールには「ダブルファウル」というルールがある。

これは攻守、敵同士の両者が寸分たがわず全くの同じタイミングでファウルした時に使われる極めて稀なルール。つまり両者が同時にファウルしたので喧嘩両成敗、というわけである。

しかし、かつてこの記事で紹介したように、

 

bokunonoumiso.hatenablog.com

 

守備側が圧倒的に不利で、基本的に体の接触はほぼ守備側のファウルを取られがちなバスケットというスポーツにおいては、そもそも攻撃側がファウルを犯すという事自体そう多くないところに「両者同時に」というオマケつきである。そういう面からもこの「ダブルファウル」を極めて稀と言っても言い過ぎではないと思う。

そんなバスケットボール界ではもはや都市伝説とも言われていた「ダブルファウル」を高校時代のどうでもいい練習試合で経験したことがある。

 

 あれは高校の時に近所の工業高校に練習試合に行ったときのこと。

 

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相手側の高校のコーチか副顧問か不明だが、とにかく監督ではないらしく手が空いていた謎のオッサンは、いかにもわしゃあNBAが、アメリカが好きや!とそう言いたげなダボダボの服をまとい、動きの節々から「USA」を感じさせる妙なノリを放ちながら、練習試合のうちの一試合の審判をすることになったわけである。

 

 

「ピーー!」

 

「ダブル、ファウルッ!」

 

オッサンがダブルファウルを宣告したとき、会場はその初めて耳にする驚きの判定結果にビックリ、石坂浩二は降板し島田紳助は芸能界を引退、アシスタントの女は失業である。俺もビックリして途中からまちがって何でも鑑定団の話になってしまったが、会場はNBAですら殆ど見られないあの「ダブルファウル」がこの片田舎のやってもやらなくても正味どうでもいい練習試合で発生した事実に驚き、にわかにザワザワしていた。

まさかの珍獣ダブルファウルの登場に、ダブルファウル慣れしていない選手、また試合の記録をつける「オフィシャル」と呼ばれる係りの人々。それを見て「今のはダブルファウルといってネェ...」と説明をするオッサン。何だかとても嬉しそうである。

まあとはいえこの審判がそうジャッジしたのであればそうだったのであろう、ルールにも存在するわけであるし、もしかしたら完全に同時でダブルファウルが起きる条件だったのかもしれない。

そんな形で気を取り直して試合開始である。しかしである。

 

「ピピーー!」

 

「ダブルーーーッツ、ファウルッ!!!」

 

またである。またダブルファウルである。腕を大げさに動かし、オッサンは気持ちよさそうにダブルファウルを叫んだ。例えば漁師の網にかかるリュウグウノツカイも1匹なら歓迎されるけど、群れで来たら「ええええ.....ッ」ってなるじゃないすか。あの時の体育館の雰囲気はまさにそんな感じであった。

一年間にこの地球上で行われるバスケの試合が何試合か知らないが、その地球上で行われる全ての試合においてダブルファウルがジャッジされる回数、多分俺の予想では多くても1000回ぐらいだと思うのだが、そのうちの2回がこの試合で発生してしまったのである。

 

「今のもダブルファウルといってネェ~」と嬉しそうに説明するジジイの背中を見ながら「あいつどっちがファウルしたか分からないだけでは」という視線が浴びせられていた。ダブルファウルの乱発に躊躇いつつも、試合はそのままオッサンの審判で続行。

 

「ピピピーーー!」

 

「トリプルーーーー、ファウルッツ!!!!!!」

 

あのオッサンなら新しいルールでも作ってしまいそうな、そんな勢いであった。

 

 

※イラスト:盛岡くん