ニュー新橋ビルの台湾式マッサージ

沢山の小さな飲食店がまるで飲み屋街のように軒を連ねる通称「おやじビル」こと新橋駅前の「ニュー新橋ビル」の3階にマッサージ店ばかりが集まるエリアがあるのをご存じだろうか。以前仕事の外回りで近くに来たのをきっかけとして新橋ビルを探検し、たまたまこのマッサージフロアにたどりつかなければ自分では知ることはなかったと思う。

フロア全体がマッサージ店だっただろうか。興味本位で眺めながら歩くと店内や店先に立つ店員から、大半は片言の「ドゾー」の呼び込みの声が一斉にあちこちから飛んでくる。夕方前、俺のほかにはフロアを徘徊する人もおらず、呼び込みが俺に集中する。場所柄健全な純然たるマッサージ店とは聞いていたがそれでもこのマッサージ店だらけの異様な雰囲気には圧倒される。

仕事中であったがマッサージ店に行ってみたいという気持ちが勝り、その中で比較的安かった「台湾式」と書いてある店に入ってみることとした。それが初めてのプロによるマッサージ経験。若干片言のの女性に一番短い時間とされた15分間のコースでお願いすることに。

「えっとぉ、こ、このぉ15分の」

「スッキリコース、ですね」

たしかそういう名前のコースだったが、とにかく店側が名付けた特有のサービス名や料理名を口にするのが俺には時々難しい。

スッキリコース、はじまるやすぐに「おおお」と声が漏れる。これぞ台湾式というべきか、初めての俺は正直何が台湾式なのか知らんのだけど、とにかくかなりのパワーで、まずは肩と首のあたりを手と肘でゴリゴリと、これがものすごく痛く思わず顔が歪む。その後同様に主に手と肘を使いものすごい力とせっかちな動きでゴリゴリ、腰、肩、足、これがどこをやっても痛かった。

「これが台湾式…」

良薬は口に苦しともいうし、この痛いのが効いている印でそしてそれが看板に掲げられた「台湾式」の極意なのだろうと信じじっと痛いのを顔をしかめて我慢をしていた。そういう痛いのをよしとするマッサージをテレビで見たことがあるような気がしたし、なんというか良かれと思ってやってもらっているのに「痛い」というと無粋というかイケていないというか、そういう色んな思いが交錯しつつ、痛かったけれども我慢をした。

「なぜならこ、これが台湾式なのだから…」

台湾式とはこういうもの、痛いものなのだろうそうだろうと我慢していたところ、もう15分も経とうかというところで、女性が「気モチーですか」と聞いてきた。それには俺も驚き「えっ!最初からもの凄く痛いです」と言うと「それは早く言ってくださいもう終わりです」と終了した。

クビに痛みを感じながら店から出てきた俺は「ドゾー」とあちこちから片言の呼び込みが浴びせられながら足取り重く新橋ビルを後にした。