学生向け悪徳PC・英会話スクール様のおかげで今日もブログが書けております

学生をターゲットにした英会話・PCスクールというのものが都市圏を中心に昔から存在しているが、残念ながら中には「英語とPC資格がないと就職出来ない!」と学生を騙して高額な授業料を支払わせる悪徳スクールがあり、苦情などを受けては今も名前を変えつつ生き延び続けている。

大学の近くや就職セミナー帰りの学生を狙いビラを配ったりアンケートを要求し連絡先を得ると怒涛のテレアポでおびき寄せては軟禁状態で強引に入会させるのが今も昔も変わらぬ手口であるようだ。

10年前と比べると数は減ったようだが、まだまだ大小様々な会社が活動していると聞く。借金を作り学生生活に支障を来す若者もいるなど実に許しがたい連中である。

実はこのボクも、恥ずかしながらこの悪徳スクールの一つにわずか2ヶ月だけながら入っていた事があるというい悪徳スクール被害者の一人である。しかもこっぱずかしいのは騙されたとか脅されたとかそういうんじゃなくて、全くのピュアな心で「英語、PCがないと就職できないらしいので入れてください!」と半ば自ら突入した志願兵である点である。このように新宿の某スクールの門を自ら叩いた情報弱者としてのお恥ずかしい体験を、せっかくなので皆さまにお伝えしたいと思う。

 

あの勧誘の電話が初めてやってきたのはまだ寮暮らしをしていた大学1年の秋頃である。どこで番号を知ったのか知らないが妙になれなれしい女の声で電話が掛かってきた。

「今英語とPCの資格ないと就職出来ないって知ってるかなァ?」
「周りの学生はもう準備始めてるよ!」
「とにかく一度話を聞きにきて!」

まだ大学1年だってのに就職だなんてそんな物騒なことについて一体何をそんなに力説しているのか良く分からなかったが、寮の外に特に友達がおらず「女と話せる」という、それだけが嬉しくて「また掛かってくる様に」というスケベ心から「ちょっと考えます」と言っては毎回態度を保留し続けたものであった。この勧誘電話だが、中にはいきなり日本語のおぼつかない外人から電話が掛かってきて、釈然としない態度で断ろうとすると「タラレバデスカー?タラレバデスカー?」としか返ってこなくなるケースなどもあり、中々楽しめるものでもあったのを記憶している。

初めて電話があってからしばし時は経ち大学2年の夏、俺は「一向に大学で友達が出来ないのは寮の居心地が良すぎるからだ!」という被害妄想にとり憑かれて寮を飛び出て高円寺で一人暮らしをしていた。

しかし寮を出てみた途端襲い掛かる将来への不安、、これからは大東京との真の闘いが始まる・・・!などという気負い、不安、そして寮を出て改めて思い知らされた「友達がいない」という残酷な事実。友達に頼って就活できる状況でもなく焦る気持ち。一人暮らし始めて数か月経ったある日、ふと思い出したのが一時期「就職」だの「資格」だのと言って電話を掛けてきていたあのスクールの姉ちゃんのことである。

≪とにかく一度話を聞きにきて!≫

幸いケータイのメモリには件のスクールの電話番号が「出るな」という名前で登録がされていた。この「出るな」はその後「出るな2」「出るな3」と先方が番号を変えてくるたびにケータイ電話帳界に次々と続編を世に送り出すことになり、さながら「出るなファイナル」で完結するであろうロッキーシリーズの様相を呈していたわけである。

「よっしゃ、こっちから掛けてみっか」

「出るな」という番号に電話を掛けるシュールさはあったが別に「掛けるな」ではないことだし、とにかく俺は何か物凄く前向きな気持ちでそこに電話をしていたのである。普通ならそういった勧誘に使われる番号は発信専用であることが多かろうが、「出るな」には繋がり、そして人が出たのであった。

電話に出た女性はおよそ受付とは思えないような気の抜けた声で、「あ?エッ・・・?」と、そう応じた。殆どかけてくるヤツがいないのか苦情の電話かで警戒していたのだろうか。強い意志をもって電話した人間の熱いキモチに水を注すこの対応。おいおい、入れ入れとうるさかったのはそっちじゃないかよ、もっとこう、熱く応じてくれよMen、と思ったが「今分かる者がいない」とまさか相手にされずその日は断念。意を決して出頭したが最初警察に相手にされなかった元オウム平田の気持ちはこのような具合だったのだろうか。

一度は入門を断られた憧れのおスクール様の「面談」なるものの予約が取れたのはその翌日であった。「出るな4」からかかってきた電話は、通常の勧誘電話と違って妙にトーンが低かったのを覚えている。その電話越しで入会の話を聞きたかったがどうしても「面談」を経てから入会するのがルールなのだそう。

「面談」として指定された場所はその後何度か行く事になる、スクールがあった新宿西口の某ビル内。「面談」の当日、約束の時間にビルにたどり着くと、エレベーターの前に一人の女が待っていた。これがまあ本当に島田珠代にそっくりで、20代前半だと思われるがずっとニコニコしていて妙になれなれしい電話口での態度そのままに、珠代は酒焼けしたようなかすれた声で「ごんにちは!」と両手で握手してきた。夏だったからか珠代はなぜかアロハシャツを着ており、そして俺はというと久しぶりに女と話したばかりか握手までしちゃったことにより恥ずかしながら勃起をしてしまいました。

ビルの10数階へ昇る間、珠代はかすれた声でこのビルがどんなに凄いか、テナントとして入るには審査が厳しいなどを話し始め、案の定「ツーワケデ、ウチはちゃんとしたスクールなんだよ」で締めた。

「こちらで説明をします」と言って案内されたついたての半個室のようなブース。なぜかそこではトランスが流れている。まずはコレを観てね、と据付けられたテレビデオにVHSがイン、それは「就職戦線異常アリ!」というめちゃくちゃ古いビデオ教材であった。要約すると「意識の低い学生は越冬できず、冬死ぬ」という内容だったように記憶しているが、ビデオが古すぎて全然説得力が無かった。

お次は簡単なアンケートに答えて、と言われて渡されたアンケート用紙。これがまた項目も多いし、いちいち「○○文字以上で」なる小生意気な文字指定があったりなどで時間の掛かるアンケートで、オイオイもう能書きはいいから、僕はよほどのことがなければ自分から入りに来たんだぜさっさと学校の説明をしてくれないかいと思ったが、アンケート記入後なぜかここから最初から決まっていたかのように突然「なっとらん」的な説教タイムがスタート。

要約すると「アンタは意識が低い!冬死ぬよ!」という内容だったように記憶しているが珠代は声が酒焼けしすぎていてお前が肝硬変かなんかで死ぬぞと心配で全然説得力が無かった。入る気マンマンで来ているボクに何でコイツは説教垂れてんだと思うと妙にイラっときて「いや、でも・・」と反論しようとすると、

「タラレバですか~?」

発せられたのはどこかで聴いた様な素敵な言葉。妖怪タラレバデスカの登場である。ご覧の通り俺はタラもレバも言っていないことから、「学生を黙らせる10の言葉」的なマニュアルの読みすぎで、完全に言葉がフライング気味に出てしまったのだろう。

「別に言ってないですけど・・・」

ブースに流れる微妙な空気を下品なトランスが埋める。

気を取り直すように「では校内を案内します」と言う珠代に従い校内を見学してみると、そこでは死んだ目をした学生と、躁状態なんじゃないかってくらいノリノリの学生の二つに分かれており、女はノリノリの学生を選ぶように話しかけ俺にその楽しそうなスクールライフを伝えようとするのである。

スクール案内の最後に、そこのスクールを経営する社長が宮崎キャンプ中の巨人・長嶋監督(当時)とツーショットで取ったという、壁に掛けれた巨大な写真の説明を聞かされる。

「社長の教育に対する考え方には長嶋監督も『共感』して、それからは宮崎キャンプのたびに個人的に会っている!」

そのような説明だったが写真はどう見ても「ミスター!肩にゴミが」とかいってミスターを無理やり声を掛け、ミスターが振り向いた瞬間をパシャリとやったようにしか見えなかった。ミスターの顔半分、そのエッジは残像のように儚く消えかけており、スクール社長とは全く目が合っていないのであるから。著名人の写真がこのように全国のいたるところで悪用されている例は他にも沢山あるのだろう。あの時見たものはその一角に過ぎないはずだ。実に恐ろしいことである。

一通り校内を見学したのち、再びあのブースに戻ってくると、そこには別の女の姿が立って待っていた。ざっくり40代だろうか。色が黒くやはり同じようにアロハシャツを着ていてやはりニコニコしている。珠代の上司らしく、つまりここから先はクロージング、うれしはずかし入学契約のお話が始まるのである。

「PTAって知ってる?」

上司女がいきなり問いかけてくる。まあ意味は知ってるけど多分なんか別のが正解なんだろうと思うと答えるのが面倒くさくて、「いやあ、分からないですねェ」と白々しくいうと女上司は「ふふん・・」と得意げに微笑み、案の定「『パパママ助けて、アタシ自分で何もできないよー』の略です」と妙に演技がかったヴォイスで得意げに言うではないか。

「えっ?」

「いや、だから、『パパママ助けて、アタシ自分で何もできないよー』で、Pがパパ、Tが助けて、Aがアタシ、ね!」

な、何て強引な・・・!もう1回言わせちゃおうかな・・・・!

つまり彼女が言いたかったのは「今回のことは親に一言も相談せずに自分で決めろ!」という事なのである。提示された入学費、学費諸々の金額は60万円。提携の学生ローンであればここで即決すれば審査もOKなどというわけである。そして学生一人で即断できる金額ではないし普通なら止められるであろうものを「PTA理論」によって「お前が決めろ」と強引に詰め寄っているわけである。

そこから先は「日本の学生は自立していない」とか「スネカジリでいいのか!」など、学生にとって痛いところを色々とツツイてくる説教タイムに突入。言われっぱなしはさすがにイラっときて、「いや、それは違うと思いますけど、、」と反論しようとすると、

「タラレバですか~?」

ブースに流れる微妙な空気を下品なトランスが埋める。

俺は今でもめちゃくちゃ酔っ払った時に想像のパラパラを空想のトランスを口で奏でながら踊ることがあるのだがこの時聴かされた個室トランスの影響が大きいと思う。

60万という額を見せられた後に月払いが1万なにがしとか言われると何となくバイトすれば支払いも出来るしさほどでもないという事でこのウン十万円にかなり軽率にサインするの軽率な俺であったがものの十数分で「いいっすよ?」と言ったとき、向こうが「えっ決めちゃうの?!」というような顔をしていたのが忘れられない。PTA理論よ~い!

 

これが悪徳スクール入学に至る全工程である。色んな人の体験談を観る限りでは入るまで4時間監禁などというケースもあったようであり、俺は入る気マンマンで自ら乗り込んだヒジョーにマヌケな例。その脅威をお伝えするにはあまり参考にならないかもしれないが、実際のところ複数人で長時間の監禁となると、冷静な判断も困難だと考えられる。

俺が入ったスクールは今は同じ名前では存在しないがどうやら名前を変えてコソコソ勧誘活動を継続しているようである。まだまだ活動しているところもあるので、街で声を掛けてくる英会話、PC資格の話にはどうか気をつけてもらいたい。

最後に、その2ヵ月後、やめるときの話もしておきたい。愚かにも、スクールの質の悪さと明らかな値段の高さ、親に相談せずに決めさせられたことの異様さなど2ヶ月後になってようやく気づいた俺は、スクールに申し出せずいきなり消費者センターにこの件を相談してみると殆ど手間も掛けずに無事に契約を解除。「ああ、そこからの相談は多いですね」と、悪評を知ったのはその際であった。結局損失は4万円。勉強代としては高すぎるだろうか。(一応タイピングだけはスクール様で鍛えて頂きましたので今ブログが書けているのはスクール様のおかげです。)

やめる前の最後の授業、PC室に誰も居ないのを見計らい、スクール様で教えて頂いたスクリーンセーバーの変え方を駆使して、そこにあった全てのPC10台程のスクリーンセーバー全て「消費者センターに相談したらやめられます」というメッセージに変えて去って行った。

皆さまもどうか気をつけてもらいたい。