あと5㎏痩せたいのです

温かくなった5か月前から欠かさず近所を走る小太りの青年を毎朝通勤中にぼんやりと眺めていたが恐ろしいほどに一生懸命に走っているが恐ろしいほど全く痩せる気配がなくむしろどんどん太りゆく彼を眺めながら走った後はさぞかしメシが美味いんやろなホッホッホ、ッシャー俺も負けてらんねぇな、など安心して趣味のメシ食いに精を出していたのが数か月前。コロナで俄然メシが美味くなったのもあってか気づくと体重は記憶している在りし日のレギュラー体重より10㎏増えており、ある日ついに腰痛や膝痛などといった分かりやすい攻撃をもって俺のボディを攻めてきた。

今までは「体重増の原因は筋肉がついたから!」という自分に都合の良いポジティブな理由を持ち出して見過ごしていた過去一番の体重増であったが、先日写真に写った自分の姿が完全にパ・リーグとかでめちゃくちゃホームランを打って先発投手を援護しそうな色黒のキャッチャー体形(平たく言うと元ロッテの里崎)で同じ野球界で例えると野茂英雄ばりの食材としての身の付きの具合で宇宙人がせめて来たら真っ先に食べられちゃうのではという意味での命の危険を感じ2年ぶりの健康診断を前にきちんと痩せることにした次第。

現実を直視せず行動を起こさないのがデブの得意技であるが、それよりもっと得意なインターネットで「なぜ太るのか」と素人級のストレート検索ワードで調べるとどこぞの女子栄養大学のHPで簡単な肥満理由チェックなるものがカムアップしてきて、その結果には端的に言うと「食いすぎです」という忌憚のないご意見が出てきたのでPCの前で深々とお辞儀し、早々とやるべき行動が定まった格好。

「前々から食いすぎだと思っていたが唯一の趣味のようだったので止められなかった」と食事の量を減らすことにすると宣言した俺に妻はそう言い、はい、まさにその通りだったので「その趣味を捨てます」とカッコよく伝え、朝食にはリンゴしか食わず昼飯にはサラダなどという今までなら霞に飽きた仙人の食い物と断じていたようなものを食べ、晩飯のライスは減らし適度に運動などをして1か月過ごすといとも簡単に5㎏痩せていた。いつしか家族に「タニシ」と呼ばれ、前日の晩飯の残りを翌朝朝食として片付けていた水槽のお掃除屋さんですがこのようなタニシ行為も今後はやめである。

その実、食事制限だけで痩せるのはなかなか厳しく昼休みも今までは飯を食いながら仕事しっぱなしだったものをやめ、会社のビルの周囲をウォーキングすることにしたがそれをやり始めて同じような数名のデブが同じように大きくもないビルの周辺をグルグルと回転している事を知り、その小さなとても小さな円を描く回遊デブの行列の中に伏し目がちで参加してはここから抜け出さなければと誓った1か月だった。

元ヤンキーが更生しただけで賞賛されるときの違和感しかり、元が異常体重男性だっただけなのに多少痩せたとたん天下を取ったように偉そうに痩せる方法とか更には健康にまで言及したがるのがデブの悪い癖でこれは取り締まり、逮捕監禁する必要もありますが、それでも獄中から言わせていただきたいのが今はただこの方法を信じて突っ走り残り5㎏を痩せ抜きたいという、そのことだけである。皆さん応援よろしくお願いします。